神奈川県横浜市青葉区では、医師会などの地域医療機関と在宅医療クリニック、ケアマネジャー等医療関係者が連携して、地域のケアの力を高めていく取り組みが広がっています。前回に引き続き、5月より4回にわたって行われたケアマネジャー向け医療連携セミナー。今回は第3回、在宅医療の栄養学をレポートします。

過去のレポートはこちらよりご覧ください。
第1回 予後予測の知識 高齢者の予後予測と終末期の変化、報連相のポイント
第2回 褥瘡の早期発見、早期治療のコツ

栄養不足と病気との関係とは?

みなさんこんばんは。青葉アーバンクリニック、医師の三島と申します。お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。今日は高齢者の栄養ケアをテーマにお話させていただきます。本題に入る前に、まずは自己紹介をさせていただきます。私は島根県の出身で医師7年目になります。この3月までは北海道で在宅診療や診療所の研修医をしておりました。札幌、旭川など色々な地域をローテーションして数年過ごした後に、7月から青葉アーバンクリニックで勤務しております。趣味は旅行や食べ歩きです。

画像: 栄養不足と病気との関係とは?

三島 千明|Chiaki MISHIMA
島根大学医学部を卒業後、島根大学医学部付属病院、北海道家庭医療学センター勤務後に平成28年7月に青葉アーバンクリニック入職。

ケアマネジャーさんとの思い出としてこれまで一番印象に残っているのが、北海道での家庭医療の後期研修医時代のことです。往診に行ったときのことです。認知症の90歳代の女性の方が、調子が悪いにもかかわらず、状況を理解できず、混乱して、病院に行きたがらないということがありました。病院に行きましょうと説明しても、「嫌よ、嫌よ。」と言われて、困ってしまいました。その時は看護師さんもおらず、一人で往診だったので、どこに連絡したらいいのか、パニックになりそうなときに、担当のケアマネジャーさんに相談させていただいたんです。そしたら、その時、ケアマネジャーさんが訪問してくださり、患者さんの話をゆっくり聞いて説明してくださって、普段から患者さんとの関係性があるので、患者さんも安心されて、すごく穏やかになられて、無事に救急外来を受診いただいたということがありました。その時にケアマネージャーさんの存在を、ありがたく思ったのを覚えています。

栄養と疾病との関係

では、本題に入ってまいります。まず、そもそもなぜ高齢者のケアに栄養の勉強が必要なのでしょうか。栄養状態が悪化すると、当たり前ですが、体重が減ります。それから呼吸器循環器、心肺の調子も悪くなります。そして消化管の働きも落ちてしまいます。栄養状態が悪化すると、体の傷の具合がわるくなったり、治りが遅くなったりすることにも影響してしまいます。これは免疫の力が弱くなってしまうことが理由でして、このように栄養状態の悪化はいろんなところに影響する万病のもとになってしまいます。

BMIという数値は皆さんご存知ではないでしょうか。Body Mass Index といって体の肥満の指標となる数値なのですが、この図はBMIと死亡率の関係を表している図です。

画像: 「肥満指数(BMI)と死亡リスク:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ epi.ncc.go.jp

「肥満指数(BMI)と死亡リスク:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ

epi.ncc.go.jp

研究の結果によると、この図の右側、肥満になるのはもちろんですが、反対に左側、痩せによる場合の身体への影響は非常に大きいということが示されています。死亡率、縦の軸の傾きが急になります。それは先ほど申し上げたように、栄養素が損なわれることで、筋力が低下したり免疫力が落ちてきたりということが色々な病気を引き起こす原因になるからですね。

とある調査によると、入院患者さんの4割、訪問診療をされる方の3割くらいは栄養状態が十分でないというデータがあります。自分で歩いて外来に通院されている一見元気そうな方の中にも、実際には栄養状態が良好でない方もいると言われています。このように考えていくと、栄養状態に介入することで、元気に過ごせる時間、要するに健康寿命が改善すると言えるのです。

栄養不足になってしまう3つの原因とは

では、栄養不足の原因とは何でしょうか。大きくは加齢による身体機能の低下、心理的な問題や環境的なもの、そしてお薬による影響、この3つに大きく分類されます。1つ目の身体機能の低下については、噛む力、飲み込む力が加齢とともに弱まってきます。皆さんよくご存知かと思うのですけども、よく見逃されやすいのが「歯の状態が悪い」ことが影響しているケースです。義歯がやせてしまっていたり、長年使って合わなくなってきたりすることで食事がうまくできないということもあります。2つ目の心理的・環境的な問題としては、ご自身が食べたくても身体がつらくて食事の準備ができなかったり、だんだん面倒になったりしてしまうケースです。また、経済的な問題も関係してくることがあります。3つ目の薬による影響ですが、いわゆるポリファーマシー、多剤による悪影響があります。お薬全部が悪いわけではないのですが薬によっては食欲がなくなったり、吐き気やお腹の調子が悪くなったりすることがあります。高齢者の方は数日、一週間の間に新しいお薬が追加されたり、治療の内容が変化したりと薬の影響もよく気を配っていただくことが必要になってきます。

低栄養を見分けるチェックポイント

では実際に患者さんの栄養状態を見るときのチェックポイントを見ていきましょう。

1.食事量
客観的にどのくらい食事を召し上がっているのか確認しましょう。過去3ヶ月分が目安となります。

2.体重測定
家で定期的に測れなくても、受診した際につけた記録が手元にあれば、最近増えているのか減っているのか気にしてみてください。

3.ADLの変化
もともと元気だった方がだんだん弱ってきていないか。あるいは寝たきりだった方の場合は最近の動きはどうかということをチェックしましょう。

4.急なストレス、疾患を経験したか
急な精神的ストレスというと、例えば家族間の人間関係の悪化、身内または、親しい方がお亡くなりになった後の喪失体験というものがあげられます。食欲や鬱につながることもありますので注意が必要です。

5.認知症、うつ病はないか
認知症は進行することで徐々に食欲が落ちることが多いですし、その途中でも、認知症だと体調の変化など、うまくご自身の状態を伝えられないということがあります。食事も準備もできなかったりすると、栄養状態の悪化につながります。うつ病も先ほど述べましたが、食欲低下の原因として挙げられます。

6.BMI
体重とBMI も栄養の評価に使うことができます。ずっと家のベッドで過ごしていらっしゃって体重を計れない場合は、身長で推定する公式もあります。また、ふくらはぎの長さはBMIと相関があると言われているので参考にすることができます。

以上は国際的なスクリーニング評価の項目にもなっており、当てはまる項目が多い方は低栄養の可能性が高く、注意が必要になってきます。ぜひ参考にしていただけたらと思います

高齢者に必要な栄養量とは

ここからは、高齢者に必要な栄養量についてご紹介いたします。簡易なものと少し詳しいもの、主に2つの方法があります。簡単な方法は特別なご病気がない方に使用し、適正なカロリーの概算は、25〜30キロカロリーに理想体重(IBW)をかけることで算出できます。それに対して、病気になっているときの様々な状態を踏まえて、正確に計算する方法として、別の計算の仕方があります。ハリスベネディクト式と言いまして、必要なエネルギー量に、日々の活動量、ストレス係数という3種類の数字のかけ合わせで出すもので、今はネットで検索していただくと、計算してくれるサイトがいくつか出てきます。肺炎になって治療中の方、熱が出ている方、褥瘡があったり怪我があったりという方はストレス係数が高くなりますので、そういう場合は普段以上にエネルギーが必要になるということをご理解ください。

高齢者に必要な水分量について

次に必要な水分量ですが、体重から計算する場合、一般的に30ml×体重と言われています。目安としては、高齢者の方は1日1500、80代後半、90歳代になりますと、900から1200あれば十分じゃないかと言われています。ただ、その方の体格や状態によってはこれよりも少なくても十分維持できる場合もありますので、あくまで目安としてお考え下さい。それから熱が出ている時は、熱で身体の代謝が高まって水分蒸発量が増えるため、通常より水分が必要になります。一般的に熱が1度上がると、必要水分量が200mlくらい増えると言われているため、熱が高い方は水分補給をこまめにお勧めすることが大事です。ただ、心臓のご病気がある方ですとか、腎臓の機能が非常に低下している方など水分制限がある方には注意が必要です。また、水分制限がなくとも大量の水分を短期間に一気にとってしまうことで心臓の負担が出ることもありますので、過剰な水分の投与には注意が必要だと思います。

夏は脱水に注意!脱水に気づくポイント

次は脱水に気づくポイントをご紹介します。まず、皮膚や口の中、脇の下が乾燥しているということがあります。なかなか気づくというのは難しいかもしれないですが、ちょっと手だったり腕だったりを触ってみて、普段と比べて乾燥しているのではないかなと気をつけていただくことはできるかと思います。後は、脱力してぼんやりしているというのがあります。また、高齢の方は体格が大きくないので、下痢をしているとか嘔吐しているとか、尿の量が普段より減っているのも注意が必要です。口から水分をとれていないのに、利尿剤を2錠も3錠も飲んでいる方の場合は、尿がたくさん出てしまうので、脱水のリスクが高くなります。血圧測定を家でできるのであれば、脈拍が普段よりも上がっているとか、逆に非常に低いとかを確認されるとよいと思います。脱水の予防として経口補水液の利用がお勧めです。他の商品でもいいのですが、よく見るのはOS―1ですね。電解質や糖分のバランスを考慮した組成になっていて、体にすばやく吸収できるようになっています。胃腸炎や下痢嘔吐熱を伴う脱水などにも適していますし、インターネット情報を見ながら家で手作りすることもできますので参考にしていただければと思います。以上簡単ですが必要な1日のカロリーの考え方と水分の目安、脱水のときに注意してほしいところをお話しさせていただきました。

【疾患別】栄養ケアのポイント

では、残りの時間で疾患別にポイントをお伝えしてまいります。

■認知症
認知症の場合、症状を適切に訴えることができないので、低栄養に気づきにくいという特徴があります。認知症には種類が多数あり、薬もバリエーションがあるため低栄養にもさまざまな要因が考えられます。たとえば、飲み込みが起きてしまったり、自分が食べたいものばかりを食べてしまったり、体を動かすことが難しくなったりということもありますし、食事中の姿勢がとれなくなったり、集中して食べることが難しくなってきたりということもあります。あとは、妄想や幻視、味覚の変化、抑鬱の症状、食欲に影響がでるお薬の副作用など多岐にわたります。そのため認知症の方の場合も是非、食事の形態や栄養状態に気をつけていただくとよいと思います。

認知症が進行してくると、やはり食べること自体が難しくなります。経管栄養の必要性について検討する場合もあります。経管栄養は次回詳しく講義がある予定です。
認知症患者に対する経管栄養の意義は、医学的な面だけではなく、ご本人の意思、QOLなど、様々な要素を考慮して検討する必要があります。食べられなくなったから、今後はずっと経管栄養、ではなく、我々医療者はその必要性や患者さんにとっての意義について慎重に対応することが求められていると思います。

■糖尿病
糖尿病は食事に気をつけなければいけないというのはよくご存知だと思います。非常に大雑把な目標摂取エネルギーがあるのですが、最近の治療のトレンドは、その方のADLとか健康状態によって糖尿病治療の評値を変えていくことです。ガイドラインの抜粋を載せておりますが、例えば一番右の縦の列、認知症が非常に高度な場合をカテゴリ3と言います。これは、ADLが低下したり、身の回りのことが自分ではできない状態ですが、そういった方の場合はインスリンの血糖目標値をある程度許容するという方針になってきていることを示しています。患者さんにとって、このように目標値も個別性がありますので、治療中の方は、治療方針や目標値について、かかりつけの医師の方針を確認するとよいと思います。

■褥瘡
栄養状態が悪いと褥瘡の発生原因や同時に傷が治りにくいことにつながりますが、そもそも高齢になるにつれ必要とするエネルギー量も減っていますので、栄養をしっかり摂っていかないと絶対に治すことができません。亜鉛やビタミンなど必要な医療元素や栄養素を摂っていくことが大事になります。その他アルギニンなどちょっと聞き慣れないミネラルや栄養素の摂取が推奨されています。こういったものは、食事だけで補うのは少し難しく、そもそも口からとれない部分も結構多いので、褥瘡の方を対象とした栄養補助食品の利用も積極的に検討いただければと思います。

■腎臓病
腎臓病の食事療法の基本は、エネルギーはしっかり摂りつつもタンパク質、塩分は控えめにすることです。ただ、病気が進行してくると、カリウムや水分の制限が必要になることもあります。腎臓病の場合も大事なのは、進行の段階によって食事の制限の程度が変わってきますので、現在の治療の方針に疑問点がある場合には、主治医だったり看護師に確認してもらうことが必要です。腎臓病に関しても食品の交換表や治療の補助食品がたくさん出ていますので、利用を検討していただくとよいでしょう。

高齢者の栄養管理は、医師だけ、診療所や病院だけで介入することには限界があります。ご本人、ご家族がどのように考えているのか、どのような生活をしているのか、をご本人達に寄り添って理解し、医師、看護師、ケアマネジャーさんや地域の方々のチームで取り組むことで、患者さんのケアの質は上がっていくのではないかと思います。私自身もこの地域で診療させていただくなかで、ぜひ今後も皆さんからのご意見を頂き、協力しながら、患者さんに一緒に関わらせていただければと思います。本日はありがとうございました。

構成・文:坂口雄人

【セミナー第4回】は、「医療者とケアマネジャーの連携に必要なこと ~摂食嚥下評価と胃瘻~」についてです。

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.