神奈川県横浜市青葉区では、医師会、地域医療機関、在宅医療クリニック、そしてケアマネジャーなどの医療関係者が連携して地域のケアの力を高めていく取り組みが広がっています。前回のインタビューでは、青葉アーバンクリニックの飯塚さんと神野医師にセミナーを企画された経緯とその目的を伺いました。
今回より、全4回にわたり開催されたケアマネジャー向け医療連携セミナーの開催内容をご紹介します。第1回は「高齢者の予後予測と終末期の変化、報連相のポイント」です。
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医療者とケアマネジャーの連携に役立つ医療知識 ~より良いケアプラン作成のために~
テーマ:代表的症例の予後

神野医師。青葉公会堂にて(横浜市青葉区)
みなさまはじめまして。今年で医師8年目になります。神野範子と申します。医学部を卒業後家庭医を目指し、ヘリコプターをバンバン飛ばすような地域の基幹病院やサテライトクリニックを中心に経験を積みました。病棟から外来、さらに在宅やホスピスという様々な場所で生後数か月のお子さんから100歳を超えた方までの診療経験を積む中で、医学的な問題だけではなく、複数の問題が複雑に絡みあっている患者さんを診ていくことのやりがいと奥深さにどっぷりつかってしまいました。この分野はどれだけ学んでも学び足りないと日々感じているところです。
第1回目の今回は、ケアマネジャーの皆さんがよく遭遇する病気(認知症・老衰、がん、臓器不全)の予後、それからターミナル期の特徴をご紹介します。ケアマネジャーの皆さんが、病気の自然経過を知った上で「この人がどういう経過をたどるか」という見通しを持つことで、ケアプランを立てる際、またクリニックとの連携を強化していく際にお役立ていただければと思います。
認知症・老衰、がん、臓器不全の予後
認知症・老衰
認知症・老衰は、安定期→虚弱期→高度虚弱期→終末期という経過をたどります。
安定期の時は、外来通院をしながら高血圧などの慢性疾患の管理をする状態が続きます。虚弱期に入ると歩行が不安定な状態となり、認知機能の低下が出始めます。だいたいこのタイミングで介護保険を申請し、ケアマネジャー、ホームヘルパーが入るケースが多くなります。その後、認知機能が軽度から中等度に移り、転倒が頻回になってくるなどの問題が出始め、徐々に高度虚弱期に入っていきます。大体この辺りになると、在宅医療が積極的に導入されるケースが多くなるのではないでしょうか。その後、嚥下障害や肺炎等の感染症を繰り返すようになると、いよいよ終末期に入り、最終的には死に至ります。
アルツハイマー型認知症については、診断が出てから予後(余命)はおよそ10年前後と言われており、軽度→中等度→重度という経過をたどります。軽度は2~3年ほどで、物忘れなどの短期記憶の低下が続きます。この間はある程度の社会活動も可能です。その後だんだんと、長期記憶などが低下し、場所や時間がわからなくなる見当識障害が起こります。実行機能が低下し、料理や買い物のリスト化ができなくなったり、同時進行で複数の物事を考えることも難しくなるのが中等度です。この期間が一番長く、状態は4~5年続きます。最後に重度になると失禁、歩行障害、嚥下障害が起こり、最後は誤嚥性肺炎を繰り返します。
がん
がんは、最後の1~2ヶ月で急激に状態が変化するのが特徴です。まあまあ期、だんだん期、どんどん期と大体3つの期間に分類することができます。まあまあ期の変化は月単位で大きくは変わりません。がんによる痛みなどをコントロールしながら自立した生活が可能で、病院やクリニックで通院治療を受けるケースが一般的です。だんだん期になると変化は週単位となり、ADLの低下が見られるため、介護ベッド、てすり、トイレ、入浴介助など生活面でのケアが必要になってきます。その後、どんどん期では日ごとに状態が変化します。がんの進行に伴う食欲の低下、嘔吐やせん妄、むくみ、酸素化低下など様々な症状が出はじめます。最後は起きていられる時間が短くなり、お看取りに至ります。
特にまあまあ期からどんどん期にかけて、急速な病状の変化がありますので、ここでぐっと集中的に介護やケアラーの心理面での支援が必要になってきます。ケアマネジャーの皆さんにとっては覚悟と環境整備のギアチェンジが必須となります。
臓器不全
慢性腎心不全と慢性腎臓病の2つの病気をご説明します。
慢性心不全は心臓機能が低下し、肺に水がたまること(急性増悪)を繰り返すのが特徴です。この場合、だいたい入院が必要となりますが、虚弱が進んだ高齢の方だと、退院できても入院前と同じ状態に戻ることは難しいです。入退院を繰り返しながら徐々に弱っていくため、最終的には入院はせずに在宅でできる限りの治療をするという選択肢がとられることがあります。
慢性腎臓病は近年増えてきている病気の1つで、透析導入の原因の第1位は糖尿病です。透析を導入した後に何らかの理由で透析の継続が困難になった場合は、その後急速に状態が悪くなり1~数週間で亡くなります。はじめから透析を導入しないという選択の場合は、長くて1年、短いと半年ほどで死を迎えます。
ターミナル期の特徴
いよいよお看取りが近くなるターミナル期は、亡くなる1週間前頃から段々と眠っている時間が長くなり、1、2日から数時間前にかけて、声をかけても目を覚ますことが少なくなってくるという経過をたどります。多くの方に同じ傾向があると言われており、ターミナル期の変化においてもある程度予測が可能です。
知っておくこと、ふり返ること
こうした体の変化をあらかじめ知っておくことで、ご本人の状態を落ち着いて受入れることができ、ご家族の心の準備を支援することができます。最期の段階に入ると、どうしたら良いのか、今後どうなっていくのか、ということに不安を抱える方は多いのではないかと思います。先にお話しした身体の変化を前もって知っておくことも重要ですが、それ以上に、亡くなられた後にその方の最期を多職種と振り返ること、そしてターミナル期に入ったご本人やケアラーに対して必要となる身体的・心理的ケアを学び続けていくことが大切だと考えます。
予後を予測するために主治医に聞いておきたい2つのこと
各疾病の予後について基本的な知識を頭に入れると同時に、主治医や入院先の病院、訪問看護師など各方面に対して積極的に情報を取りにいくという動きも必要になります。

写真右は、グループディスカッションに参加する西山医師。
主治医に聞いておくべきことは大きく2つあります。
1つは「今元気に通院できているけれど、今後入院になるとしたらどのような状態のときか」。もう1つは「緊急入院にならないようにするために日々注意をしておくことは何か」。
この2つを事前に確認した上で、必要な勉強や心の準備をしておくと、ご家族やヘルパーさんにも普段の生活上の適切な助言や指示をすることができます。たとえば慢性心不全の場合、定期外来を待たずに臨時でも受診すべき目安を「普段より体重が3kg増えた時」など具体的な指示を外来主治医からもらっておくと、緊急入院を回避することが可能です。高齢者はなかなかご自身で「調子が悪い」と訴えることができません。そのため、主治医から「食事内容」「記録すべき内容」など、客観的に変化がわかることを日頃から記録しチェックするとよいでしょう。
また訪問看護師さんとは日頃からコミュニケーションをとり、訪問看護にはどのような機能があるのか、どんな時に利用したら良いのかをあらかじめ知っておくとよいでしょう。いざという時に、主治医に相談をして訪問看護を入れる適切なタイミングが判断できるようになりますし、必要なサービスの見落としも防ぐことができます。
医療と介護の最適な連携のために
最後に、医師との連携についてお伝えします。医師に何をどう伝えたらよいのか、どう相談したらよいのか迷われる方は多いのではないかと思います。
ケアプランを作る専門職として、医療職に対して「どのような情報提供を求めるのか」「それはなぜか」を明確にすると、相互の専門性が活かされます。ケアマネジャーさんにとっては、学んできている分野や経験内容が違うのですから医療知識が多くないのは当然です。
そのため例えば医療処置やデバイス(呼吸器、ストーマなど)を使用している場合、それを何となく理解して判断すると大きなリスクにつながる場合があります。重要なのは自分にどこまでの知識があり、どこからが専門外の領域なのかを明確に認識していただくことです。これにより大きなリスクを回避し、適切なタイミングで適切な医療と介護を提供することが可能となります。
これからも在宅患者さんの医療と介護をつなぐハブ(ネットワークの中心)ともいえる、ケアマネジャーの皆さんと一緒にがんばっていきたいと思います。