2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、日本はかつてない高齢社会を迎えます。増大する医療・介護ニーズにいかにして対応するのか。各地域で様々な取り組みがスタートしています。その一つ、横浜市青葉区では2015年1月に「青葉区在宅医療連携拠点」を開設。在宅医療についての地域住民からの相談受付、バックベッドとなる病院の調整、ICTを活用した連携ツールの提供、さらに他職種連携を推進するための各種セミナーなど積極的に行っています。今回は、2016年5月27日に開催されたケアマネジャー向けセミナーの企画に携わった青葉アーバンクリニックの飯塚さん、企画から運営、そして講師を担当した神野医師のおふたりに在宅医療連携の現状と課題について伺いました。
飯塚以和夫|Iwao IIZUKA
青葉アーバンクリニック ゼネラルマネジャー。新潟大学経済学部卒。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、中小企業診断士。学校法人・短期大学の設立および運営、歯科医療関連企業の再生、一般企業の上場支援(人事部門)等の責任者を経て、(株)メディヴァに参画。在宅医療部門の事務長に就任。在宅分野で求められるのは、多様な職種、多様な組織が自律的に関わりつつ患者視点のチームワーク。そのための組織作りに取り組んでいる。
神野 範子|Noriko KANNO
家庭医。コンサルタント。社会科学系大学院を卒業後、金沢大学医学部に学士編入。卒後、北海道の民間病院で研修を経て家庭医療専門医となる。一人ひとりの患者を取り巻く医療制度・介護状況の行き詰まりに対し、違う切り口からのアプローチや改革が必要と考え、現在は、在宅医として医療現場に従事しながら、コンサルタントとして自治体や企業と共に、患者中心の持続可能なヘルスケアの実現を目指している。
行政と取り組む、患者さん目線のチーム医療
-在宅医療に取り組む青葉アーバンクリニックが行政と一緒にケアマネジャー向けセミナーを企画されたと聞きました。今、在宅医療の分野において、医療と介護の連携というのは大きなテーマになっていますよね。今回、このようなテーマでセミナーが企画された背景にはどのようなものがあるのか。また、その中で青葉アーバンクリニックはどのように地域に貢献していきたいとお考えなのか伺えればと思います。
飯塚さん)私たちは青葉区で在宅医療クリニックの運営をしているのですが、青葉区の在宅関係の会合や訪問診療の相談などで医師会が運営している青葉区メディカルセンターさんとかかわることが多いんですね。いつものようにお伺いしてお話をしていた中でこのようなセミナーをやりたいとお声をかけていただいたのがきっかけです。

「在宅医療・介護は、多様な職種や組織が患者視点の元で自律的にチームワークを発揮することが求められる」と飯塚さん。
-そうだったんですね。
飯塚さん)ケアマネジャーの資質の向上は、現在国レベルでの議論となっているところですが、青葉区在宅医療連携拠点の責任者(看護師の資格を持たれているケアマネジャー)も実務の中で同様に課題を感じておられました。診療報酬改定に伴う病院の在院期間短縮やできれば最後は住み慣れた自宅で過ごしたい、という患者さんやご家族の想いから、従来は病院で療養していた方が在宅で療養する機会が益々増えてきています。
一方で、ケアマネジャーさんは介護畑のキャリアを歩んできた方々が多数を占めますので、病気の予後の流れなどについては詳しくない。その結果、医療依存度の高い方にあったケアプランを作ることができる人材が非常に限られてしまっています。
青葉区に住んでいてよかったと最期に思われる街に
もう一つあるのが、横浜市青葉区の地域特性です。青葉区は首都圏の大病院に通院している方が多いのですが、そういう方が治療の最後に自宅で介護となった時に受け皿になるのがケアマネジャーさんです。ケアマネさんが医療知識と地域の医療機関について把握していると、スムーズに在宅医療、在宅介護に移ることができます。
-在宅医療に取り組む医療機関には、他職種との相互理解、連携が重要なんですね。
飯塚さん)青葉区に住んで良かった、と最後に思ってもらえるような街にしたいですね。そのために青葉区の医療職・介護職がひとつになって他の地域とも連携できると、住みよいまちづくりができると思うんです。
日単位だけではなく月単位、年単位でイメージできるように
-今回のケアマネジャー向けセミナーはどういう内容で構成されていますか。
飯塚さん)今回のセミナーは「よりよいケアプラン作成のための医療知識講座」と題して全4回で企画しています。高齢者の予後予測と終末期の変化、褥瘡、栄養管理と脱水予防、摂食嚥下評価と経管栄養まで実際の事例をたくさん盛り込み、在宅医療の現場で役に立つ内容になっています。
神野先生)現場のケアマネジャーさんの現場の声としては、「病気のことを学びたいが、どうやって学んだらよいかわからない」、「訪問看護の利用を開始するタイミングがわからない」、「ターミナル期の患者さんの変化がわからない」、「医療職にどのように相談したらよいかわからない」など、医療者と連携するにあたって多くの悩みがあがってきます。
一方で、訪問診療を行う医師や訪問看護師からも、「生活の安定に重点が置かれがちだが、病状によっては医療的なことを優先する時があることがあまり伝わっていない」「病状の進行の特徴に慣れていない場合、医療介入が後手になるときがある」「皮膚の発赤を放置するとどうなるかが予測できず、重症化してしまうケースがある」などといった声があがっているのが現状なのです。
-難しい問題ですね。このようなお互いのコミュニケーションの難しさを解消していくためには何が必要なのでしょうか?
神野先生)はい。前述の例で言うと、ケアマネジャーの皆さんが、病気の自然経過を知ったうえで、「この人がどういう経過をたどるか」という見通しを持っていただくことが一つの解決の糸口になると考えています。

訪問診療に携わる医師でありながら、医療コンサルタントでもある神野範子先生。
病気というのは自然経過があります。医療者は、通常、症状のゆるやかな進行の流れを理解し、目の前の高齢者の状態を過去の経過から将来の変化という「線」でとらえて理解します。たとえばある認知症の患者さんが、当初は怒りっぽく、診察や介助に抵抗していたところ、月日が経つにつれ、徐々に活気がなくなり、介助への抵抗がなくなってくるということはよくあります。
医療者であればこれを認知症が進行してきたと捉えられるのですが、家族や介護者の中には、「抵抗がなくなった」という今の状態だけをみて、認知症の症状が落ち着いて改善に向かっているのではないかと考えてしまい、必要な対処が遅れるということもあるのです。
病気によっては、今後も徐々に状態が悪化したり急変を繰り返すことを予測し、過去と同じ状態ではなく、刻々と変化していることを認識しておく必要があります。
「この病気は放っておいたらどうなるんだろう」ということを、病状に応じて日単位だけではなく月単位、年単位でイメージできるようにしておくことは、「必要なサービスのシミュレーションができる」「必要な知識を予め勉強できる」「いざ何かが起きても衝動的にならず冷静に対処できる」「放置すると問題になる状態や重症化を予防できる」など多くのメリットがあります。このように、医療者が持つ病状の予後予測の知識を共有していくことを今回のセミナーの大きな目的としています。