2025 年には、国民の4 人に1人が75 歳になると想定されます。病院死の割合が今と変わらない場合、2030 年には病院のキャパシティで受け止めきれない年間死亡者数が40 万人を超えるというデータもあります。看取られる場所がない、死をむかえる場所が定まらないという「看取り難民問題」です。

在宅医療の必要性が強調される社会的背景には、この「看取り難民問題」があります。課題の多い在宅医療の現状、そして今後の在り方と、実際の取り組みをご紹介します。

日本の看取りの現状と、間近にせまる「看取り難民問題」

画像: 住み慣れたご自宅で亡くなった方は12.4%。病院で亡くなる方は78.4%。

住み慣れたご自宅で亡くなった方は12.4%。病院で亡くなる方は78.4%。

高齢者が地域のなかでどう暮らし、どう看取られていくのか。日本が抱える大きな課題ですが、着目するのは「看取り場所」です。

日本人の約8 割は病院で死亡しており、世界的にみても極めて「病院偏重型」といえます。自宅での死亡は全体の1 割強といったところです。看取られる方のQOL や日本の財政状況を考えると「病院看取り8 割」は変えざるをえない数字です。

在宅療養支援診療所が稼働していない現状

“高齢者が住み慣れた地域で、親しい人とともに過ごしながら人生を全うする。”

これを支えるのが「地域包括ケアシステム」の概念で、核となるのは24 時間患者の求めに対応できる「在宅療養支援診療所」です。

全国には約10 万件の診療所がありますが「在宅療養支援診療所(以下在支診)」の届けを出している診療所は14%にすぎません。そのうち約10%は届出をしていても患者がおらず、33%は看取り実績がありません。届け出をしているうちの43%が、非稼働もしくは未稼働なのです。

なぜ10 万件のうち80%以上もの診療所が、在支診の届けを出さないのか。せっかく出していても非稼働、もしくは未稼働なのか。2013 年に行った当社のアンケートからは、医師が在宅医療に感じる「2つの負担」がみえてきました。

なぜ未稼働?医師が抱える2つの負担感

画像: 在支診・病の緊急コール・往診体制などに関する調査(2013.6) Copyright © Mediva Inc. mediva-hhc.jp

在支診・病の緊急コール・往診体制などに関する調査(2013.6) Copyright © Mediva Inc.

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在支診へのアンケートによると、2つの診療業務に50%以上の医師が負担を感じていることが分かりました。

「24時間の電話対応」と「臨時往診」です。

平成27年12月の厚労省の発表によると、開業医の平均年齢は63.9歳(※)。開業医の半数以上が60歳を超えている状況を考えると、夜間の電話応対や臨時往診に体力的な負担感を抱くのは当然と言わざるをえません。また、年齢に限らずおひとりで診療所を経営されている医師の方々であれば、限界を感じることもあるでしょう。

医療の質を担保しながら医師の負担感をいかに軽減できるか。これが「看取り難民問題」解決へのアプローチのひとつとなるのではないでしょうか。

24時間電話対応と臨時往診の負担を仕組みづくりで軽減する

医師・スタッフが負担感なく続けられる在支診を目指す、当社支援先の事例を紹介します。

医療法人社団プラタナスの桜新町アーバンクリニックと松原アーバンクリニック、神奈川県の大船、鷺沼の分院です。このネットワークは。チームで地域の在宅医療を支え、2015年現在約2000人の患者さんを約20名の常勤医師と30名の非常勤医師で看ています。年間の自宅看取り数は250名を超えます。

仕組みで持続させる、負担感の少ないグループ診療

在宅医の負担感軽減の取り組みとして≪電話対応は持ち回り制≫としています。また、夜間・休日の臨時往診は有床診療所の当直医に出動を依頼できる≪臨時往診体制≫を整えました。

臨時で依頼された当直医が、初めて診ることになる患者さんにも普段どおりの医療を提供できるよう≪情報連携システム≫も整備しています。医師はクラウドにアップされた患者サマリーで情報を受け取り、iPhoneで患者カルテを確認できるのです。

在宅医が抱える業務の負担を見直す中で、カルテは患者さんのお宅から次のお宅への移動中などに≪ディクテーション≫で吹き込むこととしました。在宅専用の電子カルテを使用することで生産性は50%アップしました。これにより生まれた時間は、患者さんおひとりへの診察にも、より多くの患者さんを診ることにも使えます。

負担感を減らすという点で、同ネットワークの松原アーバンクリニックは、世田谷区で唯一緩和ケア機能も果たす18床の有床診療所です。在宅医療に関わる医師にとって、法人内にバックベッドを確保できている安心感は大きいのではないでしょうか。

機能強化型在宅療養支援診療所の上位1%

桜新町アーバンクリニックの場合、薬剤師やOT、PTの専門性を活かし、医師とともに在宅医療に取り組み、最近では「認知症初期集中支援」の国家プロジェクトのパイロットサイトとして、多職種が連携しながら認知症の高齢者を支え、大きな成果を上げました。

2014年の同院の実績を見ると、患者数は300名(うち居宅230名)。がん患者さんの割合62%、自宅看取り数100名、自宅看取り率85%です。常勤医師1人当たりの自宅看取り数は25名。前述の日本全体の在支診の実績よりはるかに高い数です。また、機能強化型在支診の中でも看取り数が100名を越える施設はわずかに上位1%(27か所)です。グループ診療の仕組みが機能しているからこそと言えるのではないでしょうか。

チーム医療を持続させるために

この実績の維持には、診療業務以外への配慮も必要と考えます。たとえば時短勤務などのフレキシブルな働き方を可能にすること。実際、子育て中の女性医師も仕事を続けられる環境となりました。

また、医師が在宅医として成長できる場であるかどうかも重要でしょう。その点で松原アーバンクリニックと桜新町アーバンクリニックは、日本在宅医学会の専門医指導機関になっています。訪問看護ステーションを併設する分院もあれば、診療所内に看護師がいる分院もあり、いずれも専門的に在宅看護に取り組んでいます。

地域包括ケアシステムの柱として ―横浜市青葉区での取り組み―

画像: aoba-urban.jp
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最後に、今後急速に高齢化が進むとされている人口30万人の街、横浜市青葉区での取り組みを紹介します。

2015年1月、東急田園都市線市が尾駅2分の場所に、同ネットワークの新たな拠点「青葉アーバンクリニック」が開設されました。都心近郊エリアの常として、「かかりつけは都心の大学病院」などの理由から地元にかかりつけ診療所をもたない住人の方が多くおられます。都心まで通院できるうちは問題ありませんが、ご自分やご家族ががんや脳卒中などで、急に在宅支援が必要となりお困りになるというケースが見受けられます。

横浜市青葉区の「地域包括ケア」の柱のひとつとなるべくスタートし、地域の医師会の方々にも関心をお持ちいただいていますので、今後の動向にもぜひご注目ください。

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