今年で開院16年を迎える東京都世田谷区の用賀アーバンクリニック。脳外科医としてのキャリアから、家庭医の道を選択された野間口聡医師(医療法人社団プラタナス理事長)と、僻地の赤ひげ先生から、都市部ならではの家庭医療の道を歩まれる田中勝巳医師(用賀アーバンクリニック院長)。

おふたりが家庭医として『大切にしているもの』と『やりがい』とは?

広く浅く診れること、その先に深みがあることを知っていること

画像: 田中勝巳 | Katsumi TANAKA 用賀アーバンクリニック院長。総合内科専門医、循環器専門医、介護支援専門員。僻地診療所に5年間勤務後、「家庭医」を目指し用賀アーバンクリニックに参画。小さな赤ちゃんからお年寄りまで「家庭医」の機能を担う。

田中勝巳 | Katsumi TANAKA
用賀アーバンクリニック院長。総合内科専門医、循環器専門医、介護支援専門員。僻地診療所に5年間勤務後、「家庭医」を目指し用賀アーバンクリニックに参画。小さな赤ちゃんからお年寄りまで「家庭医」の機能を担う。

― 用賀アーバンクリニックが目指す家庭医療について教えてください。

田中勝巳医師(以下、田中):
定義的には、アメリカでいう家庭医と、日本の家庭医は違います。アメリカの家庭医は訓練されていて、お産から外科手術まで行いますが、日本ではそこまではやりません。日本国内でも教育機関によって教育プログラムに違いがあるので、一概にひとくくりにすることはできないんです。

我われがやりたいのは「患者さまとの垣根を取り払い、患者様を取り巻く背景や環境も含めて丸ごとあなたを診ていきます」という医療です。

もちろん、保険診療の枠組みの中で、街のクリニックとしてできることには限りがあります。その時の体制によって提供できるサービスにも限りがあります。その時々でできる最適な医療を提供し続けることが大事だと思っています。

野間口聡医師(以下、野間口):
僕が考える街の良いお医者さんは、患者さまが最適な医療を受けるための「ゲートキーパー」となり得るかどうか。

まずは診れる範囲が広いこと。浅くても広い。

そして、もっとも重要なのは、その先に深みがあることを知っていて、適切なタイミングで2次・3次の医療機関に紹介するという判断が正しくできること。それができる人は良いプライマリ・ケアの医者になれると思ってるんです。

僕らも病気だけみていてもおもしろくない

画像: 野間口聡 | Satoshi NOMAGUCHI 用賀アーバンクリニック理事長。医学博士、脳神経外科専門医。鹿児島大学卒業後、1997年に医局を離れるまで、脳外科医としてキャリアを積む。2000年より、用賀アーバンクリニック設立に携わる。

野間口聡 | Satoshi NOMAGUCHI
用賀アーバンクリニック理事長。医学博士、脳神経外科専門医。鹿児島大学卒業後、1997年に医局を離れるまで、脳外科医としてキャリアを積む。2000年より、用賀アーバンクリニック設立に携わる。

ー 家庭医としてのやりがいはどの辺りにありますか?

田中:
もともと赤ひげ先生に憧れていた私にとって、家族単位で患者さまに慕っていただき、近しい存在になれるのはとても嬉しいことです。診察ブースで色々なご相談を受けながら、ひとことふたことでも、患者さまの心に残るような言葉をかけてあげたいと、いつも思っています。

野間口:
まずは患者さまを専門医に紹介してあげられるだけの知識と、コンタクトするスキルを持つこと。それで、この世田谷という医療資源に恵まれた立地で、地域の患者さまが必要に応じてスムーズに高度医療を受けれるよう正しく道筋を作る。そうやって一歩ずつ患者さまとの信頼関係を築いていくということじゃないかと思います。

僕らも病気だけ診てても全然楽しくない。(笑) 
一回一回の外来のセッションで、患者さまとの会話を大切にし、患者さんを知ったうえで病気を考える。患者さんの病気と、患者さんを取り巻く環境の関係性を考えることも家庭医の仕事だと思っているんです。

だから、コミュニケーションスキルはとても大事。今の若い先生方は、その辺りも学問として教えられているね。

ー ドクターから「コミュニケーションスキルが大事」ときくと少し意外な気がします。

野間口:
実は僕は、本来、ぜんぜん外来診療に向いてない。(笑) 開業以来、色々な失敗をしてきた結果、診察室に入ってくる患者さんの様子を感じることができるようになりました。

患者さんは体調がすぐれないのだから、基本的には負のオーラを背負って診察室に入られるわけです。そんな様子を肌で感じながら、この患者さんは何を望んでいらっしゃるのかを察知して対応できるようになった。どういった説明の仕方をすれば、不安を抱かせることなく、患者さんの安心や理解を得られるのか、といったことですね。

でもまぁ、100%受け止めすぎても自分が疲れ切ってしまうし、難しいですよ。
患者さまによっては余り深く入り込まれたくない方もいらっしゃるし。そこはある程度客観視してバランスを取ることも大切ですね。はやい話が空気を読めってことです。(笑)

大切なのは「Continuity-継続性-」

― 家庭医の育成とクリニックのこれからについて聞かせてください。

田中:
今の若手の先生方は、私たちの時代にはなかったプライマリ・ケアや家庭医の教育プログラムを受けています。知識も豊富で、系統だててものを考えることができるんですね。

私たちの法人内(医療法人社団プラタナス)のクリニックにも、多くの優秀な若手の先生が入職されています。用賀アーバンクリニックは、そういった先生方が実戦で学べるような場でありたいなと。 

野間口:
教育体制としては、正直まだまだです。でも、クリニック全体の知識レベル、体制であったり、提供できるパフォーマンスが常に最新であり続けることで、きちんとプライマリ・ケアの教育を受けた人たちが、自分たちの力を発揮できる場でありたいと思っています。

田中:
用賀アーバンクリニックの強みの一つはグループ診療であることです。これまでも、一人ひとりの先生がそれぞれの専門性を活かし、連携しあって診療を支えてきました。今後は法人内のクリニックの医師同士が学び合い、より連携を強化して、法人全体でのネットワーククリニック化を目指したいですね。

家庭医の育成や教育体系にも、とても関心があります。今度、亀田(注:医療法人鉄蕉会 亀田総合病院)に研修に行くので、若手の先生がどのように学ばれているのか、指導医の先生がどのような指導をされているのか、色々勉強してきたいと思っています。

ー プラタナスの先生方は、好奇心旺盛でおもしろいことがお好きな方が多いですね。

野間口:
そうかもしれないね。(笑) 何か面白いことはできないか、常に先を見据えている人が集まってるのかもしれない。

理想の家庭医療の追求やグループ診療のシステム化など、私たちと思いを共有し、時間をかけてクリニックを育ててくれる若手の先生にぜひ入職してもらいたいですね。
思いを一つにできる人でないと結局は続きませんから。

ー 13年前の田中先生との出会いのように、でしょうか。

野間口:
そう、開院以来いろんなターニングポイントがあったけど、田中先生の入職がやっぱり一番大きかった。共通の目標をもてる人と出会えるか、出会えないか、だよね。

私自身はそういった次世代の先生たちが出てくるまでのつなぎだと思っているんです。開業医でいえば、それが「継承」ということなんでしょうね。本来、僕はメインプレーヤー向きじゃない(笑)

- 最後に、家庭医として大切な資質を教えてください。

家庭医として大事なことのひとつに「Continuity」があります。患者さまを長期にわたって継続的に診ていくことが効率的な医療につながるという考え方です。
患者さまと継続的な関係を築いていくことができること、そして、そこから得られる何かに、やりがいや喜びを見いだせることが大事なのではないかと思います。

一緒にして悪いんだけど(笑)、イチローは一本一本ヒットを積み重ねて3000打。
僕らも、日々勉強しながら、患者さんと向き合い、一日一日積み重ねてきて、気付いたら16年経っていました。

この先の日々の積み重ねで今度はどんな景色が見えてくるのか。非常に楽しみです。

画像: 野間口 聡 | Satoshi NOMAGUCHI(左) 田中 勝巳 | Katsumi TANAKA(右) www.yoga-urban.jp

野間口 聡 | Satoshi NOMAGUCHI(左)
田中 勝巳 | Katsumi TANAKA(右)

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取材・文:村上珠恵
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