世界保健機構WHOの定義によれば、総人口に対し65歳以上の割合が21%を超える現在の日本は、「超高齢社会」です。高齢者の割合が増加するのに伴い、高齢者を支える医療や介護に関わる方の数もさらに増えていくものと考えられています。最近では、医療やヘルスケアに関わりの少なかった企業や団体も、高齢者のQOL向上を目指すという新たな視点を持ちはじめているようです。
しかし、患者さんや介護の利用者、ご家族、医療介護職の方々の困りごとが解決されていない場面もまだ多く見受けられます。高齢化があまりに急速に進んだため、高齢者の方の生活を支えるためのサービスや制度が、変化に追いついていないことが原因とも言えます。
私が所属する株式会社メディヴァでは、自治体や企業の持つノウハウ・技術と、高齢者や医療介護職の方々の困りごとをつなぎ解決するためのコンサルティングに取り組んでいます。自治体だけでなく企業も含め、社会全体がより良いサービスを提供できることが、高齢者の生活を支えるために不可欠であると考えています。
株式会社メディヴァ コンサルタント。大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、みずほ銀行にて法人向け融資・経営企画業務を担当。銀行業務を通じ医療介護分野に関心を持ち、聖路加国際大学看護学部に編入。看護師資格を取得後、株式会社メディヴァに参画。
患者視点のサービスとは何か
では、ヘルスケア業界における良いサービスとはどういったものなのでしょうか。ここ数年で、クライアントからも同様のご相談をいただくことが増えています。その答えは一つではありませんが、ヘルスケア業界・医療介護業界で求められるサービスを目指すならば、患者さんや利用者が求めるものの『個別性の高さ』は意識するべきポイントになると考えています。
高齢者ニーズの個別性とは
ひとくちに高齢者といっても、心身の状態や生活環境は本当に様々で、かつ加齢や疾患により変化します。また、実際にサービスを使用するのは、高齢者ご本人だけでなく、ご家族や医療介護従事者であることも多く、ご本人とは異なる困りごと(ニーズ)を抱えておられます。
さらに、高齢者ご本人の状態により生活の場も変化します。病院で療養されている方、ご自宅で過ごされる方、介護施設で生活される方など様々で、その結果、求められるものも様々に異なってくるのです。このように立場や場所によってニーズが多様で可変性があること、これが「個別性」だと考えています。
だからこそ、高齢者の生活に関わる課題解決に取り組む際は、どんな人が利用するのか、どんな場所で利用するのかを綿密に把握し、それに応じた機能や価格設定を考えていくことが大切です。また、医療介護保険制度の下で、関連法令に準拠しているのか、保険適用になり得るのか等も把握しておく必要があるでしょう。
ヘルスケアに関わる多くの方の笑顔のために
誰が、どこで、何のために、どんな風に使うのか。ヘルスケア業界でのサービス開発には、医療や介護の現場目線で考えていくことが重要であり、その目線にも多様性があることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

最後に少し個人的な話になりますが、私の前職は、企業向け融資業務に従事する銀行員でした。当時、お客様の中には、技術力・開発力がありながらも売上減に悩む企業が多くいらっしゃいました。「良い商品・サービスを作っているのに受け入れられない」というお客さまの悩みに対し、私が直接関与できたのは、財務面からのアプローチが中心でしたが、それだけでは解決には至らないこともありました。
現在はコンサルタントとして、多様なアプローチをとり得ることに意義を感じています。そして、患者さんや利用者の目線、医療と介護の現場に立脚した知見、調査分析結果をもとに、クライアントの技術力やサービス特性を見極めたユーザー像の設定を目指しています。
個別のニーズを満たしたサービスや商品は、高齢者であるご本人の満足度だけでなく、支えるご家族や介護関係者、医療関係者の負担の軽減にもつながります。このような取り組みで、ヘルスケアを取り巻く多くの方の笑顔を創り出していけたらと思います。
次回Vol.2のテーマは、「シニア向け食サービスの現場から」の予定です 。