◆世界の医療を知り、日本の医療をふりかえる◆
このシリーズでは、今この瞬間も営まれている世界のさまざまな出来事をヘルスケアの視点から紹介します。私が所属する株式会社メディヴァの海外事業部スタッフが世界で見聞きした話題に、少しだけ自分たちの視点を加えてお伝えすることで、皆さんの気持ちが世界に少しでも近づき、世界の医療へ飛び込むきっかけになってくれたらとてもうれしいです。
病院入院日数の各国比較
「世界の入院事情を覗いてみよう」の前編では、私のベトナムでの入院体験をもとに、入院生活における常識の違いを紹介しました。私たち日本人が海外での入院という事態に直面した時、必ずしも我々の期待に合致するサービスが提供されるとは限らない背景をご想像いただけたのではないでしょうか。
ところで、万が一、みなさんやご家族の方が海外で入院することになったとしたら、「一体何日くらいで退院できるのだろう」という不安もよぎるのではないでしょうか。そこで「世界の入院事情を覗いてみよう」の後編では、入院日数に関連したデータを紹介してまいります。
急性期の平均入院日数(2014年)の各国比較
このグラフは、経済協力開発機構(OECD)が発表したデータを元に作成しました。2014年の急性期の平均入院日数(ALOS;the average of length of stay in hospitals*)の各国比較において、トルコが最低日数となる3.8日であることがわかります。アメリカ合衆国が5.4日、イギリスでは6.0日、ドイツでは7.6日となっています。そして34ヶ国全体の平均6.6日を大幅に上回り、日本は16.9日。2位のロシア10.2日をも大きく引き離した結果となっています。

Length of hospital stay Acute care, Days, 2014 or latest available Source: Health care utilisation
少し入院とは話が逸れますが、このデータだけを見ていると、日本の平均入院日数は他国と比較して極端に多く、日本の医療制度が何か異質なのでは?と感じる人もいるのではないでしょうか。単純にこのデータだけを比較して語ろうとすると、例えば「平均入院日数が多いということは、完治するまで手厚い治療が施されているのでは?」「無駄に入院させられてしまうのでは?」などなど妄想が尽きません。
すべてとは言いませんが、特にこうした極端なデータを見る時には、そのデータの収集方法や算出方法を確認した方がよさそうです。例えばこのデータについては、国によっては日帰り入院・半日入院をカウントに入れていたり、日本では外来として扱う透析や化学療法も入院として扱われていたり*2、ここにある数字が示す意味を検証してみる必要があることを理解した上で、このデータを活用していきたいと考えます。
短期の入院でも満足度が80%を越えるデンマーク
データの取り扱いと同時に、海外の情報を比較する際は、大前提としてその国ごとの制度・文化・風習・習慣などの違いを少しでも把握しておきたいところです。たとえば平均入院日数に関しては、興味深い例としてデンマークのケースをご紹介します。
あるデータ*3によると、急性期に限らないすべての疾患に対する平均入院日数が4.8日(2009年)であるデンマークでは、医療全体に対する満足度が86%(2008年)*4となっています。
デンマークでは制度上、病院での入院日数をできるだけ短くし、医師も患者も「療養期は病院を退院して自分の住む自治体で過ごすもの」という意識をもっています。この状況でも医療に対する満足度が高いのは、各自治体の総合診療医(GP:General Practitioner)による家庭医システムの存在が大きいためだとされます。デンマークでは、家庭医が地域の方々の日常的な健康相談や入院へのプロセス、退院後のフォローアップにも関わるシステムが確立されています。このシームレスなフォロー体制が安心感を与え、入院を特別視することなく、平均入院日数に関わらず医療全体への高い満足度を支えているのだと考えられています*6。
一方で、日本では家庭医という考え方が十分に浸透しているとは言えず、医療機関への受診や治療は非日常であり、医療と普段の生活が隣り合わせだという感覚があまりありません。そのため入院はイベントとして、普段の生活から切り離してフォーカスされているような気がします。デンマークと日本では、日ごろからの健康や病気に対する考え方が異なるため、結果として結果として入院という言葉や行為の持つ意味自体が、日本人が考えるそれとは異なっているのではないでしょうか。
各国の事情、様々な視点
今回は、各国の入院日数の比較と、その中の一例としてデンマークの平均入院日数に着目しました。各国の事情を把握するとき、様々な視点で考えると色々なものが見えてくるのかな、と今回も改めて感じることができました。同時に、その事情の中で共感できるものがあり、強みになることもありますので、また改めてその辺りを考えながら業務に勤しみたいと思います。皆さんのココロにも、何か世界の医療への関心やきっかけが生まれてくれたら幸いです。
最後に、私たち海外事業部のスタッフは渡航前に、こちらのサイトを最低限チェックしておきます。渡航先により、事情は様々ですのでこれで安心といえるものではありませんが、これから国外へ出られる方はご参考になさってください。
外務省 国・地域情報 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/