◆世界の医療を知り、日本の医療をふりかえる◆
このシリーズでは、今この瞬間も営まれている世界のさまざまな出来事をヘルスケアの視点から紹介します。私が所属する株式会社メディヴァの海外事業部スタッフが世界で見聞きした話題に、少しだけ自分たちの視点を加えてお伝えすることで、皆さんの気持ちが世界に少しでも近づき、世界の医療へ飛び込むきっかけになってくれたらとてもうれしいです。

海外で入院したことはありますか?

皆さんが海外に行きたいと思ったり、渡航の用意をしたりしている時、観光ガイドブックなどで虫刺され予防や生水を飲まないなど感染症や食あたりなどの注意喚起をご覧になることはあると思います。しかし、もし現地で入院する事態になってしまったらどうしましょう。あまり想像したくないことですが、私たちはどこまで備えを万全にしておく必要があるのでしょうか。果たして日本の常識は通じるのでしょうか。今回は海外の入院事情を少しだけご紹介します。海外渡航の心の準備として、頭の片隅にご記憶いただけますと幸いです。

前回の記事で「公的医療保険制度」をご紹介したとおり、日本の同制度は、普段私たちの目に見えないところで日々の安心を提供している部分があります。また日本の医療施設は日本の文化風習を自然に取り込み成り立っている側面があり、こうした点において入院中に想定外な対応を強いられることは少ないでしょう。しかし一歩国境を越えれば、我々にとっての常識や当たり前のこととして求める感覚は通用しません。入院という不便な局面においても、言葉だけでなく異なる習慣や文化を受入れながら治療を受ける必要があります。

入院生活は異文化体験

日本では、入院すれば当然その原因に対する治療が次々と展開され、ただじっと寝て病院側にお任せする姿勢でも良いと思います。しかし海外では治療や食事などでも注意が必要です。もちろん国によって、公立や私立といった施設によっても様々ですが、例えば費用を前払いしなければ治療が開始されない場合があったり、食事は自分で手配しなければならない場合があったりもします。

マレーシアの入院事情

一例としてマレーシアの入院事情をご紹介します。

外国人が訪れるようなマレーシアの私立病院は、いわゆるモール形式を取っている場合が多く、よほどの緊急時でない限り、モール内の各専門医師に事前に予約を入れて診察をうけます。診察前にはデポジットや医療保険の提示が必要です。診察時に必要な検査が発生すれば、モール内の各検査室でそれぞれ前払いによって検査を受け、さらに入院となればデポジットを支払いモール内の入院施設に入ります。入院中の点滴などの処置はすべて前払いとなり、領収書ベースで治療が進行します。

この状況をご想像いただいている方はひとつの不安を覚えるのではないでしょうか。そうです、都度で支払いが発生しているために、患者さん一人では対応しにくいということです。

さらに入院中の食事も、デポジットで賄われます。日本人に対してはその気遣いからか、日本食レストランから出前などを頼むこともできますが、残念ながらレストランの豪華な食事は病人に配慮されたものではありません。従って、自分の体調により好みの食事を手配したり、といったことも必要になってきます。

画像: マレーシアの入院事情

何をするにもまず支払いがあり、入院しても自分の体調にあった食事が満足にできない状況となるのです。誰かの手助けがなければ、自分独りで会計カウンターまで支払いにいき、食事を手配してと、病気だけでなくその他の手続や雑務とも戦っていかなければなりません。支払いひとつとっても、列に並ぶことがあまり習慣化されていないマレーシアでは、健康な人でさえ一苦労を強いられます。

これだけを切り取って紹介してしまうと、患者にやさしくない病院だと思われてしまいますが、マレーシアでは家族や知人が必ず付き添い介助してくれるという文化的な背景があるため、単身向けのサービスを想定しない仕組みが出来上がってしまったと思われます。

勿論、キャッシュフリーで診察を受けられる医療保険をお持ちの場合や法人での契約がされている場合にはこの限りではありませんので、そうした医療保険や病院を選んでおけば、支払いに関しては安心でしょう。病院食に関しては、完全に誰かを頼らない限り、体調に合わせた満足な食事は期待できませんが・・・。

ベトナムでの入院経験から

家族や付き添いの仕組みは少なくとも私の訪問したことがある国々では当たり前とされており、マレーシア同様、そうした助け合い精神を前提として病院の仕組みが確立されている気がします。かく言う私は、JICA青年海外協力隊としてベトナムで活動していた期間中、不覚にも高熱を患い、自身が活動していた地方の公立病院に入院した経験があります。周囲に面倒を見てくれる日本人がいない事を知る同僚は、独りでは寂しいだろうということで、ずっとベッドサイドで私の手を握りさすってくれました。

勿論、他人にベッドサイドで手をさすってもらう経験などない私は恥ずかしいやら複雑な気持ちでしたが、あまりの辛さになす術もなく、されるがままでした。支払いや投薬の手続きは他の同僚が行ってくれたようで、他人で外国人にも関わらず私を助けてくれた同僚たちには、深く感謝しています。

次回『入院事情を覗いてみよう(後編)』では、入院日数という切り口で、各国の平均日数や入院、医療のあり方をみてまいります。

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