現在、医療機関はどこも同じようなサービスを提供するのではなく、それぞれの機能に応じて役割を分担し、地域全体としてより質の高い医療を提供できるよう「病診連携」を推進しています。診療所の医師(かかりつけ医)であれば初期診療や慢性の継続診療などの外来医療を、大きな病院は入院を中心とした専門的な検査や治療を行う役割が期待されます。このような病診連携を推進するのが各医療機関の連携担当者です。今回はそんな医療連携担当者が、日々どのような取り組みを行っているか。そこで考えていること、これからの地域連携についてインタビューをお届けします。
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日頃から情報を把握し、関係性をつくっておくことが大事
塩澤萌|Moe SHIOZAWA
長野県出身。国際基督教大学教養学部国際関係学科卒。スウェーデンベクショー大学留学。開発業務受託機関(CRO)にて抗がん剤の国際共同治験に携わる中で、患者さん・家族のQOLに関心を持つ。患者、家族、医療従事者、経営者等、様々な考えや価値観を取り込みながら、医療・ヘルスケア分野での新しい価値創造を目指し、2013年6月(株)メディヴァに参画。
―塩澤さんは医療連携の仕事を始めてどれくらいになるのですか?
およそ3年半になります。もともとは抗がん剤の開発の仕事をしていて、頻繁にがん患者さんのカルテを見ていました。カルテを見ていると、ご家族から治療方針への理解を得ることが難しかったり、医薬品以前にもっと予防でできることがあるのではと感じたりする機会がよくあったんです。薬の開発、治療というフェーズだけでなく、もっと広く人を取り巻く生活に対してアプローチしていきたいなと思うようになりました。そんな中で縁があって今の仕事と出会ったんです。
―そうだったんですね。医療連携の仕事は初めてだと思いますが、日々どのようなことをされているのでしょうか。
在宅診療を提供するクリニックの病診連携を担当しています。訪問先は、大きく有料老人ホーム等の施設と個人のお宅に分かれるのですが、私は主に施設に入居されている患者さんを担当しています。施設に入居されている患者さんに何か病状の変化があった際に、必要に応じて療養型病院や、2次救急、3次救急といわれる高次の医療機関へ橋渡しをする役割です。
たとえばCTやMRIでの精査が必要になったり、転倒骨折されて手術が必要になったりという時などがそれにあたるのですが、いざそのようなことが起きた際にスムーズに受け入れ先を見つけられるように周辺にどの分野に強い病院があり、今の受け入れ状況はどうか。お願いする際に必要な情報や依頼の流れなど日頃から情報を把握し、関係性をつくっておくということをしています。
たとえば、「〇〇の診療科が今比較的ベッドに余裕があって受け入れしやすい」であるとか、逆に「〇〇の診療科では常勤の医師がいなくて入院対応ができない」とか、あとは「新たにこういう先生着任したからこの部分が強くなった」とか、そのときどきの病院の最新情報をつかむことを大事にしています。
こうした情報は電話でもヒアリング可能なのですが、実際に訪問するとより深い情報交換ができることもあります。相手の病院にも連携担当の方がいらっしゃるので、その方から聞いた情報を院内で共有したり、逆に私にもこういう患者さんの搬送をしたいという連絡をいただくので、すぐに紹介先を思い出せるように記録をつくっておいたりということもしますね。
連携に大切な情報共有のポイントとは
―これまで印象的だったケースなどありますか?
ずっと在宅で褥瘡の管理をしていた患者さんが、褥瘡の入院加療が必要になり受け入れ先を探したことがありました。私に相談が来るまでに、すでに担当の事務さんや主治医の先生がいくつか病院をあたってくださったんですがなかなか見つからず。私も5件ほどすぐにあたってみたのですが、どこも難しいという状況でした。
―そういうケースもあるのですね。
それで結局、この方は少し遠方でしたが、日頃から医療連携室の方とよく情報交換したり相談に乗って頂いたりしている病院さんに受け入れていただいたんです。その担当の方には「こういう状況で困っていて、そちらで検討いただけないですか?」という相談を率直に言える関係ができていました。「うちも形成の先生が非常勤になってしまったので難しいかもしれません。でもなんとかならないか確認してみますね」という具合に前向きに検討してくださったんです。結果、外科の先生と連携をして入院対応いただけることになって本当に助かりました。

―普段お伺いをしていなかったらそもそも電話をかけることもなかったかもしれないし、率直に困ってますと言えなかったかもしれない。
そう思います。やはり日頃から情報交換をしておくことが大事だと感じたケースでした。私も普段から「ここのエリアで在宅の先生ご存知ないですか?」と聞かれることがあるので、自分の病院以外の情報も調べてお伝えしたりとできることを見つけてやるようにしています。
―困ったときに助け合ってらっしゃるんですね。他にはどうですか?
よくあるのは患者さんの入院先を探すケースです。緊急でない場合、ご家族との面談までに候補となる病院リストを準備することがあるのですが、いかに希望に合うものをご紹介できるかを大事にしています。通常私は面談に同席せず、主治医や看護師などいろんな人を介して情報が伝わるので、正確に、マメに伝えるように心がけてますね。でないと、一度決まったと思ったら後から「やっぱりこういう所の方がいい」など要望をいただくこともありますので。
訪問診療中の医師から電話で患者さんの搬送先探し依頼がくることもよくあります。そういう口頭のみでやりとりする場合は、顔を合わせて話をするときと比べて情報に抜けや聞き間違えがないよう注意しなければなりません。聞き漏れがあると情報収集に余分な時間がかかってしまいますので、その対策として院内で確認項目リストをつくりました。このリストを活用するようになってから、ずいぶん伝達がスムーズになったかなと思います。このリストは院内で共有されているので、私が訪問等で不在の時にも事務さんや看護師さんが搬送先探しの対応で活用しています。

このリストの内容は看護師さんと一緒に検討しながら作成しました。裏面もあって、救急搬送でよくある症状や疾患について、医療機関から質問されやすい項目をまとめています。たとえば脳疾患の疑いであれば、麻痺があるか、痙攣があるか、呂律が回っているかといった項目があります。また、痛みのある部位についても、全身のイラストを載せて、該当部分に〇をつけるようにするなど、電話で伝える時に間違えがないよう工夫しています。このリストを事前に埋めておくと、電話で何度も確認が往復してしまうというようなことは防げるようになっています。
―細やかな配慮や工夫を重ね、信頼を積み上げていくお仕事なんですね。
「在宅医療ができること」をもっと知ってもらいたい。
病院間の情報共有はどの医療機関でも重要なテーマです。たとえば私が担当するクリニックのひとつは、横浜市青葉区にあります。青葉区の特徴として、都内でもともとかかりつけ病院に外来受診されていたような方の地域への移行があります。都内の大病院で治療されていた方が、だんだん通院が難しくなっていざ在宅移行というときに受け入れ側がケア体制や医材などの準備不足でばたばたするケースを見聞きします。もともと患者さん自身もかかりつけていた理由がおありで、都内の大きい病院の〇〇先生とのつながりがなくなってしまうのではないか、、、と不安に思われるなど、在宅移行への準備が後手に回りがちなんですよね。
―在宅医とか近い病院にスムーズに移行できたら患者さんにとっても負担が少なくなりますよね。
はい。そのためにはまずは在宅医療ができることをもっと知ってもらうことが大事です。「この状態では在宅は無理だ」とお考えの病院の先生方に対して、在宅でできる範囲をもっと知っていただいたり、訪問先の各病院にもそれぞれ連携担当の方がいらっしゃいますので、その方に院内への情報共有の協力をお願いしたり、と理解と協力を広げていくアプローチが大切なのだと思います。あとは、近隣の住民の方向けに、在宅医療について講演会をしたり、在宅移行を検討中のご家族との面談をしたりとできることはたくさんあります。
次回後編では、地域医療の充実を目指す青葉アーバンクリニックが実施したケアマネジャー向けセミナーの背景を中心に話を伺います。