東急田園都市線桜新町駅より2分。桜新町アーバンクリニックで、小学生を対象としたイベント「こどもドクター体験」が開催されました。このイベントは事前予約制で、24名の定員に対し1600件のお問い合わせがあったといいます。「こどもドクター体験」開催の経緯から、多業種で取り組むさいに意識したことまで、同院のスタッフとしてイベントに携わった遠山さんにお話を伺いました。当日の写真とともにご紹介します。

イベント概要(※イベントはすでに終了しています)
日時:2017年7月30日(日)
場所:桜新町アーバンクリニック&デイサービス
主催:桜新町アーバンクリニック、ココカラファイン薬局桜新町店、深沢あんしんすこやかセンター、社会福祉協議会深沢地区事務局、共催:深沢まちづくりセンター、なかまっち
大好評のうちに終えた「こどもドクター体験in桜新町アーバンクリニック」

インタビューに答えてくれた方:遠山典子さん(写真右)。薬剤師として薬局に勤務後、クリニックの運営に携わる。
――小学生の皆さんは、開会式で受けとった白衣を着用して参加されるのですね。イベントの内容を詳しく教えていただけますか?
小学生の皆さんに、ドクターによる診察から薬局までの一連の医療の流れを知っていただく構成です。実際の診察室では診察体験。レントゲンツアーでは、ぬいぐるみや魚を実際にエックス線で撮影し、画像を見たりします。薬局さんによる「おくすり調剤体験」では、マーブルチョコやラムネを使って、測ったり分包したり。社協さんのブースでは「お年寄り体験」ということで、車いす体験や、お年寄りの方が感じる体の不自由さを体感していただく等の内容です。地域にはこういう人がいるんだよ」という気づきにもなります。
――イベント中はこどもドクターの皆さんも、見守る親御さんも大変熱心な印象を受けました。
お子さんたちには、純粋に体験を楽しんでいただきたいです。さらに医療への愛着をもっていただき、将来、医療職を目指すきっかけになってくれたら本当にうれしいです。また、お越しいただいた親御さんたちにこのクリニックのポリシーが伝わり、さらに今後、ご来院いただく際の安心にもつながるといいなと思います。
――先生や看護師さんの顔を知っているのと知らないのとでは、通院前の不安も違いますね。開催のきっかけを教えてください。
今年、当院は新しいスタッフを多く迎えました。このイベントを通して新メンバーが地域の皆さんにご挨拶できればと考えたのがきっかけの1つです。
開催の理由はもうひとつありまして、私は前職では高知県の薬局に勤めていました。当時、子ども向けのイベントを薬局主催で運営した経験があり、今度はそれを病院主催で、行政や薬局と一緒にやってみたらどうだろうという好奇心があったんです。実現すれば全国でも珍しい取り組みになるとも見込んでいました。
――たしかに病院単独で開催するイベントは目にします。医療連携の大切さが強調される時代にも関わらず「行政、薬局、クリニックで一緒に」というスタイルを見かけないのはなぜでしょうか。
薬局や行政から提案しようとすると、話を通す段階で大変な面も多く、正直実現が難しいんです。病院側から声をかけることでスムーズにいく面は多いのですが、病院はあえて連携しなくとも単独で体験イベントを開催できます。病院側が声をかけて連携する労力とメリットを比べて、それをどう評価するか…という話になるのではないでしょうか。
クリニックがイベントを企画する理由

薬局コーナーでは、お菓子を薬に見たてて分包までを体験。
――準備には時間、人手、お金がかかったことと思いますが『子どもドクター体験in桜新町』は参加費無料でした。主催するクリニック、行政、薬局が、このイベントで得られるものとは何ですか?
根本に「地域の医療を支えたい」という思いがあります。地域医療を支えるには、地域の医療連携が重要です。顔を知っているのと知らないのとでは全然違うというのは、対「患者さん」でも、対「連携先」でも同じことが言えますから、クリニック、薬局、そして行政が顔をそろえる機会を作りたいと考えました。
――顔をそろえるメリットとは?
1つの職種だけでは気がつけなかった課題が見えてきます。顔の見える関係づくりができていると、その課題を解決するための相談や連携もスムーズになり、結果として地域に提供する日常的な医療の質も向上すると考えています。
日程調整や情報共有など、クリニックが単独で開催するよりも手間がかかることもあります。でも今振り返ってみて、それ以上にエネルギーが必要だったのは、皆のイベントへの熱意を同じ状態にすることでした。イベントは一体感が大変重要です。普段離れた場所で仕事をしている方々の気持ちを同じ方に向け、同じ熱で取り組めるように意識しました。

X線の仕組みを知るために、ぬいぐるみや魚を実際に撮影しました。
医療と行政と薬局で取り組む理由
――他に、準備段階で印象に残っていることはありますか?
行政の方から「良い内容のイベントなので、知ってもらうだけでも価値がある。地域の学校で小学生全員にご案内しましょう」と提案いただきました。さらに「私立の学校に行かれているお子さんもいらっしゃいますから」と町内の掲示板にもポスターを掲示してくださったんです。ポスターを貼る作業を、私も1区だけお手伝いさせて頂いたのですが、炎天下に自転車でまわるの本当に大変で……。行政の方々のお仕事の幅広さと大変さを痛感しました。
――そのかいもあり大きな反響をいただいたそうですね。
募集人数24名に対し、のべ1600件のお問い合わせをいただきました。キャンセル待ちのお問い合わせも述べ120件のお問い合わせがありました。予想を上回る反響でした。これだけ多くの方が、申込開始日の午前10時を待ってお電話くださったことに、本当に感謝しています。
他にもまちづくりセンターの所長さんは、桜新町商店街の会長さんや町会長の方々へのご説明をしてくださいました。何より院内のスタッフの皆さんの協力が心強かったです。
――医師会にも声はかけましたか?
開催が決まってから世田谷区医師会に事前の報告に伺いチラシをお渡ししました。後から、上の方より私宛にお電話がありまして、「何か申請が必要だったのかな」と慌ててお電話を折り返したところ「チラシをみました。これは医師会から宣伝した方が良いですか? 」と。医師会の方も「いい取り組みだ」とおっしゃってくださいまして、「次にある時は、少し早めに教えてください。そうすれば地域の先生方にもご案内できます」とご提案くださったのはうれしかったですね。

――今後は、地域ぐるみの「小学生向け体験イベント」が増えるかもしれませんね。
そうなってほしいです!小学生向けの体験イベント自体は、どこのクリニックでも使えるノウハウですし、地域にとっては間違いなくプラスなことです。職業体験ならば、キッザニアでもできます。大学病院などが企画する子ども向けの体験イベントもあります。それらと「子どもドクター体験」が異なるのは、医療と行政と薬局の共催という点です。地域の子どもたちに楽しんでもらえた、医療に興味をもってくれたというだけでなく、地域の医療を支える多職種が連携を強める機会となることに開催の意義があります。
――薬剤師だった遠山さんが「地域」を意識するのはなぜですか?町づくりに興味がおありなのですか?
薬剤師として働いていた頃から、地域の中で地域の医療を支えたいという思いありました。それ以前には、子どもたちに社会の流れを知ってもらうための職業体験イベントをお手伝いしたこともあり、多職種が関わる面白さを知りました。町づくりというか……、町の人と人をつなげるのが好きなのかもしれませんね。
イベント開催による思わぬ収穫

――通常の診療業務に加えて、これだけの準備をするのは大変だったでしょうね。
ありがたいことにスタッフの皆さん全員が、自主的に「ここはどうする?」「何をする?」と考えて進めてくれたんです。私は各所との調整で「お願いします」「ありがとうございます」とまわっていることが多く、その間に準備がどんどん整い開催にいたりました。本当に皆さんのおかげです。
――そして全員完全燃焼(笑)。
はい(笑)。
――最後に、今後の桜新町アーバンクリニックに期待することをお聞かせください。
今回の取り組みを通して、ひとつ想定外の収穫がありました。桜新町アーバンクリニックは、一般の外来と在宅医療を提供していますが、体験イベントの準備中は外来と在宅、それぞれの部門のドクターやナース、運営スタッフが一緒にアイデアを出し、作業を進めました。これにより私の目にも「チームの結束が高まっているな」と感じることができました。
そこで運営面に関しては、どの職種も対等に自主的に動いていいんだという空気が育まれていくといいなと思います。地域においては、「困った時の桜新町アーバンクリニック」という存在を確立していきたいですね。