近年「働き方」が話題に上がる機会が増えています。『プラタナスの広場』は医療業界で働く2人の女性に、妊娠・出産といった女性だからこそのライフイベント、そしてキャリアと自己実現についてお話を聞きました。

インタビューに答えてくれたのは、国内外でヘルスケア事業とコンサルティングを手がける株式会社メディヴァの代表取締役 大石佳能子(おおいし・かのこ)さんと、医師であり同社のコンサルタントでもある神野範子さん。2人とも医療業界でキャリアを積みながら、育児を経験しています。

第1回は、神野さんの出産・子育て、復職にまつわるお話です。

大石佳能子|Kanko OHISHI(写真左)
大阪府出身。株式会社メディヴァ代表取締役。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、株式会社メディヴァを設立。厚生労働省「これからの医療経営の在り方に関する検討会」、「社会保険審議会福祉部会」厚生労働省「これからの医療経営の在り方に関する検討会」、「社会保険審議会福祉部会」等の委員を歴任。現在、(株)資生堂、江崎グリコ(株)、参天製薬(株)、(株)エムアウト、(株)ケアレビュー各社の非常勤取締役。ハーバード・ビジネス・スクールの日本諮問委員、大阪大学経営協議会委員。

神野範子|Noriko KANNO(写真右)
家庭医。コンサル後、金沢大学医学部に学士編入。卒後、北海道の民間病院で研修を経て家庭医療専門医となる。一人ひとりの患者を取り巻く医療制度・介護状況の行き詰まりに対し、違う切り口からのアプローチや改革が必要と考え、現在は、在宅医として医療現場に従事しながら、コンサルタントとして自治体や企業と共に、患者中心の持続可能なヘルスケアの実現を目指す。

第1回 医師としてコンサルタントとして母として、神野範子さんが感じたこと

――まずはお二人の、現在のお仕事について伺います。神野先生は、医師とコンサルタントという2つの肩書をお持ちですね。

神野範子先生(以下、神野):週の半分は、松原アーバンクリニック(東京都世田谷区)に所属する在宅医として、訪問診療をしています。残り半分は、大石が代表をつとめる株式会社メディヴァで、コンサルタントとして働いています。コンサルタントとしての主な仕事は、クライアントである企業や行政の皆さんと一緒に、地域に在宅医療を根付かせていくためのお手伝いです。

――大石さんは、医療法人社団プラタナスの総事務長であり、株式会社メディヴァの代表されています。

大石佳能子さん(以下、大石):社内と社外に仕事があります。そのバランスは6:4くらい。社内では、社長として会社全体を見る仕事の他、自分の部門ももっています。在宅医療、政府や企業のヘルスケア分野のコンサルティング、企業や健保の健康づくり、介護事業、海外事業に関わっています。社外ではいくつかの会社の社外取締役と、出身大学(ハーバードビジネススクール、大阪大学)の経営アドバイザーを務めています。

――そして大石さんには今年成人された息子さんが、神野さんには今1歳の息子さんがいます。今日はそんなお二人に、上司と部下ではなく「仕事をもちながら子育てをした、先輩ママと後輩ママ」という立場で、お話を伺えればと思います。

大石・神野:(顔をあわせ)よろしくお願いします!(笑)

画像: 第1回 医師としてコンサルタントとして母として、神野範子さんが感じたこと

待機児童問題よりも大変だった、ライフスタイルの急激な変化

――さっそくですが神野先生、はじめての育児はいかがですか?

神野:そうですね。正直いいますと……、想像以上に大変でした!

――ぜひ聞かせてください。それは待機児童問題とか?

神野:待機児童問題は、私の住む地域が激戦区であることや、数値で目に見える問題として扱われることから、それなりに事前対応ができたんです。それよりも大変だったのが、育児によってそれまで作ってきたライフスタイルを急激にシフトせざるを得なくなった、ということですね。大人二人暮らしから、何もできない赤ちゃんが1人増えただけで、こんなに大変になるの!?という具合でした。育児はとにかくわからないことだらけで、しかもそれを全部「母親がやるものだ」と無意識に決めつけていた自分がいたんですね。今振り返ると、色んな意味で「パラダイムシフト」を強いられた感じですね(笑)。

子育ては「母親の仕事」という思い込みから、最初は、ベビーシッターさんを使うことに抵抗がありましたでも、自分の体力やメンタルにも限界があるので、周りの力を借りないと無理だ!となってからは、フル活用するようになりましたね(笑)。それでもやっぱり大変でしたけど。

――ご主人のご協力が得られなかったとか?「ワンオペ育児」という言葉を聞いたことがあります。

神野:夫は育児にも協力的でやる気もある方だと思います。同業(医師)なので私の仕事への理解もあります。とはいえ育児のリーダーシップをとるのは母親の仕事なのかなという意識が私自身の中にあったんですよね。それが精神的な負担だったのかもしれません。育休を終えて復職した時期が、特にきつかったです。今では、たとえば夫、シッターさんとLINEグループを作らせてもらって日程を調整して手間を省いたり、アウトソーシングできるものは全部すると割り切れています。

画像: 待機児童問題よりも大変だった、ライフスタイルの急激な変化

特にきつかったのは、復職直後。その理由とは?

――神野先生は産休前も現在も、医師とコンサル2つのお仕事をされています。復職されたタイミングが特にきつかったとのことですが、どちらの職から先に復職されたのでしょうか。

神野:医師の仕事から先にスタートしました。その1カ月後くらいが、コンサルタントとしての初日でした。今思い出しても大変だったと思うのが、コンサルの最初の日です。精神的に過緊張な状態になってしまい、朝9時から17時の時短勤務でしたが終業時間まで耐えられず、半泣きになってトイレに駆け込んだり。そんな初日だったので 正直「もうこの仕事は無理だ!」とまで思いました。

――何に対する緊張だったのでしょうか?

神野:ふり返ってみれば「あの人は子育て中だからね」「時短だからね」って、絶対に後ろ指をさされたくないという思いがあったのかもしれません。休職前と同じスピード感で、同じクオリティのアウトプットをしないといけない。そういう義務感で、自分で自分を追い詰めてしまったのかなと今では思います。

――ではその1カ月前の、医師として復職は、もっと大変だったのでは?

神野:それがですね、医師としての初日は全然平気だったんです!(笑)

大石:ああ、そうでしたよね。神野先生は(医師として)スムーズに復職されたのをみていたから、コンサル初日のエピソードに、今、少し驚いてしまって…。そんなに大変な思いをしていたのかって。

神野:「大変だ、無理だ!」と感じていることが周りに気づかれるのもだめだ、と思っていました(苦笑)

大石:そうだったんですね。隠しているところも含めて、気がついてあげられれば良かった。

神野:私自身、ドクターとしての初日がスムーズだったので、コンサルとしての初日をそこまで心配していなかったんです。

画像: 特にきつかったのは、復職直後。その理由とは?

医師とコンサル。復職で気がついたカラーの違い

――医師としての復職と、コンサルとしての復職。何が違ったのでしょうか?

神野:客観的には、スタッフの男女比がまず違います。医療現場には女性スタッフが多く、子育て中の人も多い。気軽に育児トークができました。それに加えて特に在宅医療は、コミュニケーションを重視し、ナラティブに相手の話をゆっくり聴いてすすめるという部分も多くあります。「アウトプット」とか「成果主義」とかいう感じでもないので、周りからのサポートも感じやすい環境だったのかなと思います。

一方でコンサルタントの現場の場合、男性スタッフが高いです。また、私がいる現場での感覚としては、仕事の進め方もロジカルな思考が重視される傾向があります。

――なるほど。

神野:もう一つ、医療現場の方が復職しやすく感じられたのには、診療行為が身についていたことも関係するかもしれません。自転車は、一度乗れるようになればブランクがあっても乗れる。診療行為も体が覚えていたからスムーズに現場に復帰できた、みたいな感覚でしょうか。

一方でコンサルタントの仕事は、プロジェクト全体の流れを理解しないと仕事に入ることができません。「これを、〇時までにお願い」と初日の最初に渡された仕事は、分析とかではなく、簡単な資料をまとめる作業でした。仕事を振ってくれた人も、これなら復職初日でも負担なくできるだろうと配慮してくれたのだと思います。

でも、そのプロジェクトの概要を知らないので、誰に何を伝えるための資料なのか分からない。プロジェクトのフェーズも把握しないといけない。これを育休明けの頭で迅速に対応するのは、ちょっとキャパオーバーだと感じてしまったんです。

――患者さん一人ひとりと向き合い、診察の中で解決していく医師のお仕事と、プロジェクトとして進んでいくコンサルの仕事では、復職時の勝手が違うのも分かる気がしてきました。

神野:その違いを想定できていなかったんですよね。今振り返ってみて思うのはこういった大変さを、コンサル初日に仕事を振ってくれた人も、私自身も想定できていなかった。医師の仕事は大丈夫だった。だからコンサルとしても、“少しは不安もあるけれど”今日からフルスロットルで復帰するんだ!って意気揚々と出勤。そうしたら想定外の大変さに、隠れていた不安がものすごく大きくなってしまった、という感じでしょうか。

――これから復帰される方がいたら、なんと声をかけてあげたいですか?

神野:復職初日は、産休前と同じ職場も「違う世界」に見えることがあるかもしれません。それは子供ができたことにより、無意識のうちに自分の中での見方・考え方が変わっているからだと思うんです。「前と同じ自分」で意気込んで戻ろうとすると、想定外のストレスや不安に悩まされることがあります。なので、復職の日までに、「ママになって成長した自分を新たに楽しむんだ」という心づもりができるといいのではないかなと思います。心づもりができていても、想定外のことは起きます。その時に「そんなもんか」と状況を俯瞰できる、少しの余裕があるとより良いかもしれません。

――参考までに神野先生は、「大変だ、無理だ」という状況をどう解決したのでしょうか。

神野:大変さを隠していたと言いましたが、実は直属の上司にだけは、わりとすぐに相談したんです。そこで「2週間たてば絶対に慣れるから、2週間がんばってみよう」と言われました。言われた時は「本当に?!」と思いましたが、本当に2週間で慣れたんですよね(笑)。

――上司の方も産休のご経験があるのですね。

神野:いやいやいや、それが男性なんです!

(一同、笑)

神野:なぜ2週間だったのかは今でも分かりませんが、危うくキャリアを諦めるところでした。なので、結構重い話をしましたが、今は満足しています!

愛情深さと責任感と、「正解はひとつ」という考え方

画像: 愛情深さと責任感と、「正解はひとつ」という考え方

――お話を伺う中で感じたのですが、神野先生はご自身を、責任感が強く物事を突き詰めて考えるタイプだと思いますか?

神野:突き詰めます!本当にすごい突き詰めて考えるタイプです(苦笑)。

――仕事も家庭も?

神野:おそらく、そうですね。でも、私自身がその進め方を楽しんでいるのかと聞かれると、「はい」とは言えないかもしれない。一見視野が狭くなってしまうこともあるかもしれない。けれど、その中で突き詰めていこうという思いもあって、どんなことも全部まじめに取り組んできた。

――先ほどのお話では、シッターさんにも抵抗があったそうですね。

神野:はい、今ではシッターさんなしなんて考えられないのですが(笑)。育休明けは特に「仕事と育児を両立させるぞ」という思いが強かったですね。

その思いが強すぎたのか、周りのママたちが毎日子供の写真をSNSにアップしたり、『1/2バースデー』とかしてあげていたり。でも仕事をはじめた自分はそれをしてあげられていない。周りと比べて、母親らしいことができていないんじゃないか。そんな気持ちになってしまい、SNSをみれなくなった時期もありました。

大石:個人的には、突き詰めて考えることは悪くないと思います。「視野が狭くなる」というけれど、能力があり努力し突き進んでいった先にどこかでスコンと景色が広がるような見えて、人がみたことのない世界をみる人はいるんだと思う。それはそれで面白いことだと思うんですよね。

神野:多分、その根底には「正解はひとつ」という考え方が影響しているのかもしれません。医学の世界って、肺炎は肺炎、心筋梗塞は心筋梗塞っていう、一つの結論(診断)を出さなければならない。複数の可能性を同時に考えたとしても、そこからどうしても一つに絞りたがる思考のクセがついてしまっているのかもしれません。

大石:ドクターはそういう教育を受けてきますよね。私は法学部出身でコンサルタントなので医学と法学、医療とコンサルで比較しますが、「方法はなんでもいいから、この課題を解決する」というのがコンサルタントの仕事です。もちろんクライアントの課題を根本から解決してあげることもありますが、クライアントが課題だと思っていることを「それ、そんなに重要じゃないよ?」と証明してあげることで、クライアントがそれを課題だと思わなくなれば、それも正解なんです。

神野:たしかにコンサルにとっては、正解はひとつではないですよね。

大石:大学での教育的なバックグラウンドもありつつ、さかのぼって、個人のパーソナリティにも違いがあるのかな。高校生の時点で「割と勉強はできる。さあ、どの学部に進もうか」という時に、医学を選ぶ人と法学を選ぶ人では人としてのベースの部分にも違いがありそう。

神野:もともとが違って、さらに教育で強化されるということですね。

大石:たくさんの医療者に会ってきましたが、やはり医療者には人間愛とか対象物への強い愛情のある人が多い。神野先生が「突き詰める」ことを子育てにも求めたのも分かる気がして、医療者として患者さんに向けてきた人間愛の強さみたいなものが、育児にも向いたからなのかなって。

――愛情深さが子供に向き、そこに「答えはひとつ」という考え方と責任感の強さがかけあわさると、子育てにおいては大変に感じる要素にもなりえそうですね。

神野:私は幸い、すぐ近くに医療界とはいえコンサル畑があり、今もこうしてお話を聞けています。でも、ドクターって医療の世界しか知らない先生も多いんです。私生活で交流のある相手もドクター、結婚相手もドクターということが意外に多い。すると子育てでも仕事でも、違うやり方や考え方もあると知る機会が、少なかったりする。本人がハッピーなら良いのですが、知らないがために辛い状況なら、プランB、プランCもあるんだよ、と知ることは救いになるかもしれませんね。

――第2回は大石佳能子さんに、育児と仕事をどう乗り越えてきたのかを伺います。

神野:個人的にも、とても興味があります。子育てと仕事を両立してきただけでなく、キャリアも積んでこられた。しかも息子さんとは羨ましいほど本当に仲が良くて!

大石:世間一般の二十歳の男の子と母親という関係の中では、おそらく仲は良いですね。誤解をおそれずに言うなら、息子が生まれてきたときは「すっごい楽しいこと見つけた!」という感覚でした(笑)。最近ゴルフを習い始めたら、今まで話題があわなかったような人とも2時間だって話が尽きない。出産したときも、そんな感じ。ママさんとも共通の話題が見つかった!うれしい!楽しい!という(笑)

神野:えーー!?(一同、笑)

インタビューは第2回へ続きます(近日公開)。

画像: インタビューは第2回へ続きます(近日公開)。
取材・文:塚田史香 構成:プラタナスの広場編集部
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