コンサルタント小松大介さんに聞いた、医療と経営

1994年、日本は世界に先駆けて、高齢社会に突入しました。2025年には、人口の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上という超高齢社会となります。この人口構造の変化に対応すべく、現在、医療や介護の在り方にも変化が求められています。

「2025年が高齢化問題の山場だとすれば、2040年はおそらく看取り問題の山場。環境も制度も変化していきます。そうした変化を追いかけ適応することは、医療機関にとっての必須事項。でも大事なのは、患者視点をもった医療経営を続けていくことです」

そう語るのは『診療所経営の教科書』『病院経営の教科書』(日本医事新報社)、そして『2025年への経営ロードマップ 医業経営を"最適化"させる36メソッド』(医学通信社)の著者、小松大介さんです。

小松さんは、自身が取締役を務める株式会社メディヴァのコンサルタントとして、全国の診療所の開業、経営支援、病院や介護施設の業務改善、再生支援など、医療機関経営のコンサルティングに幅広く携わってきました。

かつて医療業界では、院長先生や事務長のような経営層であっても、医療と経営を同じテーブルで語ることには消極的でした。しかし近年は、経営意識の高い医師や事務長も増え、小松さんが執筆された著書も、広く読まれています。

今回は小松さんに、コンサルタントの立場から、医療機関の経営層が、時代の変化をどう受け止め、今後の診療所・病院経営に、どのような姿勢で向き合っていくべきか、お話いただきました。

診療報酬制度は拡充から効率へ

——病院経営、診療所経営への意識の変化は、なにがきっかけでしょうか?やはり診療報酬の引き下げが続いていることと、関係するのでしょうか?

小松: きっかけとしては、医療制度の「方針の変更」でしょう。1990年代後半まで、医療制度の軸は、「医療の拡充」にありました。新しい医療機器が発売されたら、診療報酬の点数をつけられるようにし、都会だけでなく、日本中の医療機関で、新しい医療機器が普及するのを後押しする。これにより、全国により良い医療を普及させる。これが、元々の診療報酬と経営の関係でした。

当時の診療報酬の算定方法や施設基準は、現在ほど厳しいものではなく、ある種の「制度上の緩さ」があったことは否めません。そのような時代ですから、ドクターは医学的な裏付けをもち、病気を治療するための医療に専念していれば、クリニック経営、病院経営を成り立たせることができたんです。

——医療機関の経営に、コンサルタントがいらない時代ですね。

小松: 実はその頃にも、医療機関の経営コンサルタントはいました。彼らの仕事は、診療報酬点数の算定の仕方や節税対策など、医療以外の課題を解決する役回りです。メディヴァを起業した当初は、僕らも、医療業界の医療の本筋とは別のところで何かをしようとしていると思われたのかもしれません。

——小松さんが目指したコンサルタントは、それとは異なるものだったと。

小松: 僕らが提供するコンサルティング・サービスは、患者視点の医療行為を実践しながら、経営的に安定する医療機関を実現することが目的です。実現のために、いくつかの医療法人と良い関係を築き、新しいサービスの構築や、今までにない経営のあり方を探ってきました。例えば患者さんにカルテを開示してみようとか、診療所のお昼の休診時間をなくしてみようとか、女性専用人間ドックってどうだろうとか。

——そのイメージを、当時の医療業界の方々と、スムーズに共有できましたか? 20年前となると、外資系コンサル出身の人(小松さん)が医療業界に関わろうとするだけで、波風がたちそうだなと思いました。

小松: 波風は、……たちましたね(笑)。今思い出したのは、起業前に、ある大学病院のドクターにヒアリングをさせていただいた時のことです。親しいドクターにご紹介いただき、アポをとり、医療業界について感じること、教授として困るなどを伺いたいとお願いをして訪問したのですが、「出ていけ」と言われたんです。それは「この部屋から出て行け」という意味ではありません。「医療業界から出て行け。君らみたいな(医療者ではない)者が来て、医療業界をダメにしていくんだ」と。

——「医療者でない者は、医療の分野に入ってくるな」ということですね。制度の方針の変更は、そのような空気も変えたのでしょうか。

小松: 先ほどお話したとおり、医療制度は、かつて「医療の拡充」を軸に構築されていました。それが「効率性・生産性の高い医療をするべき」という軸に変わっていきます。

振り返ってみれば、企業の準備をしていた2000年頃が、その移行期でもありました。『医療費亡国論』のような「医療費があるから日本がダメになる」という考え方は、1983年からあったんです(当時の厚生省保険局長吉村仁氏が全国保険・年金課長会議において発表)。その論調が90年代後半にかけて極端に強まっていき、国をあげて、「このまま医療費を膨張させ続けるわけにはいかない」という流れになったんです。

方針が変わった結果、その後も医療費は増え続けつつも、増加のペースは、かつてほどではなくなりました。病院にとっては、医療だけを頑張っても、経営を黒字化できない仕組みとなり、「本当に必要な医療を、効率よく提供しなければならない」と、経営を意識せざるをえない状況になったんです。

——「効率のよい医療の提供を」と言われても、それまでの「医学的に正しい=患者にとっても良い」という図式だけでは、「本当に必要な医療かどうか」の議論に、正しい答えは出せませんよね。

小松: はい。加えて「医学的に正しい=患者にとっても文句はない」と思われてきた、医療の在り方そのものにも、疑問が出てきたんです。たとえば、がん治療やターミナル・ケアの現場では、患者さんの選択肢も、ニーズも多様化しています。「必要な医療」から、問い直すタイミングにきているんですね。

——院長先生方は、ご自身の専門領域の臨床だけでなく、経営についても本質的なところから、本格的に考えざるをえない、ということでしょうか。

小松: ドクターにとっては、医療の質の向上と制度との間に挟まれて、複雑で悩ましい状況だと思います。中には、医学的に間違いはなく、患者さんも希望する医療の一部が、診療報酬に加算できなかったり、とりわけ「まるめ(包括医療制度)」(1患者さんあたりいくら、と一定額で加算される点数)では、患者さんのためにやればやるほど経営的な持ち出しが増えて、病院の赤字が膨らむというケースもあるのですから。

対立ではなく並列させる、医療と経営

——現在の制度下で、医療機関の経営を成り立たせるためには、医療の質を妥協せざるをえない、とも受け取れる状況です。 医療の質と医療機関経営は、対立関係にあると思われますか?

小松: レベル感によります。ある部分においては、対立する立場だといえる。たとえば先生としては、患者さんとじっくり向き合いたいと考えている。しかし患者さん1人の診療に、10分かけてしまうと、1日7時間診療しても最大でも42人しか診ることができません。患者さんの数が減り、診療所の経営的としては、損益分岐点をどうにか超えるかどうか…という水準になります。

また、入院医療の質を上げるべく手術を低侵襲にして、早期リハビリを実現し、退院を早めることができれば、平均在院日数が短くなり、患者さんに喜ばれることも多いです。ところが、この取り組みは、病院の稼働を下げ収益を下げる方向に向かいます。

しかし、そこだけを取り上げ「制度のせいで医療の質が落ちる」とか「経営をとると医療の質が落ちる」というなら、近視眼的な考え方だと言わざるをえません。

画像: 「クライアントの病院の院長先生に、読んでますよと言っていただけたり、その本に付箋がたくさん貼られていたりするのを拝見すると、やはりうれしいですね」と、小松さん。

「クライアントの病院の院長先生に、読んでますよと言っていただけたり、その本に付箋がたくさん貼られていたりするのを拝見すると、やはりうれしいですね」と、小松さん。

小松: 病院や診療所は、病気さえ治せればいいといえばいい。しかし重要なのは、患者目線を持ちながら、経営を成り立たせること。つまり「患者視点をもった医療経営」をスタートラインにすることなんです。

スタートラインが変われば、問題の設定も変わってきます。患者さんのために、良い医療を効果的に提供できれば、平均在院日数が減るのは必然。患者さんを思えば、それは喜ばしいこと。在日数が縮むような医療を提供しながら、どうしたら経営を成り立たせられるのか、という話になります。

入院在日数が減った分を補うために、新規の患者さんを獲得するための営業に力を入れよう。稼働が減ったのに合わせ、病院・クリニックのダウンサイジングも視野に入れつつ、設備や人員体制の再検討をしよう、など、やるべきこともみえてきます。

2025年が高齢化問題の山場だとすれば、2040年はおそらく看取り問題の山場です。これに合わせて、環境も制度も変化していくでしょう。このような変化を追いかけていくことは、医療機関にとっての必須事項ですが、大事なのは、患者視点での医療経営を継続することです。

——現在の診療報酬制度は、全体の配分も行き当たりばったりなところがあり、且つ改定ごとに方針が変わる。だからこそ「患者視点での医療経営」を軸にするのですね。

小松: まず経営を続けられなければ、患者視点もなにも言えませんからね。あくまでも患者視点を持ちつつ、院長先生のやりたいことをある程度やり、医療者として果たすべき医療をし、患者視点の経営を成り立たせていくことが重要なんです。

僕らはすでに、その先にいる

——小松さんは病院や診療所の経営の本を、これまでに3冊執筆されています。極端な質問になりますが、本の通りにやれば、経営は上手くいきますか?

小松: はい。コンサルの現場で、院長先生のお話を伺いながら、「本のあの章に書いたとおりにやれば、ここはもっといい病院になるはず」等と、しばしば思います。手前味噌になりますが(笑)

——実際に読まれた方からの反応はいかがでしょうか。

小松: 読んでくださった先生方が、経営に対して新たな目線を持ち、以前よりも主体的に意思決定をしてくださる雰囲気が広がったと感じます。「この章の、これみたいなことが起きているんだけれど、どうするんだっけ?」といった反応をいただいたのも、うれしかったですね。

——ご著書には、具体的な数字や計算方法はもちろん、見方によっては生々しいと感じられる、現場でのエピソードも紹介されています。社内から、ノウハウの流出を心配する声もあったのでは?

小松: メディヴァが公開したやり方を、他のコンサルティング会社さんがマネをすることはあると思います。けれど、それは人類の歴史ですよね。僕らのやり方が医療界全体の質に貢献できるならば、それに越したことはありません。「みんなでいい医療をやっていきたい」という気持ちが、まずありますから。また、本で広めた以上「僕らはすでにその先にいる」という自負を持たなくてはいけません。新しいことをやっているという自信をもち、メンバーともども、そうあるよう努めています。

——読んだ方が、やる気になって取り組んでも、全員が必ずすぐに経営が改善されるわけではありませんよね? 上手くいかなくなるケースでは、何が一番のハードルになると思われますか?

小松: 読んでくださる先生方の中には、立場や環境など、それぞれの事情ですぐには実行に移せないこともおありかと思います。それもひっくるめ一番難しいのは、「まず自分が変わること」かもしれません。

本を読むと学びにはなる。けれど、多くの人は読んだことで行動した気になってしまう。人に頼まれるでもなく、ただ本を読み、次の日から自分の行動を変えることって大変です。でも将来的には、都心部では医師の数が過剰となり、地方都市も病院の再編等により医師の数が余る可能性が出てきました。そのような流れにも負けない病院を目指すならば、まずはご自身から、がんばって変わっていただく価値があると思っています。

1ページ目の1行目からでなくてもいいんです。目次をみて気になったページを、自分の診療所の数字とつきあわせていただけば、「うちの病院のこの数字、改善が必要なのか?」と気がつけることがあるはずです。あるいは特定の問題へのアプローチが、自院とは違うというものを1個や2個は見つけられると思います。そのように本を読んで課題をみつけた時に、「自分が変えなきゃいけないんだ」と考え、実際に一歩でも動き出せるかどうかなのかなと思います。

——最後に小松さんの、今後の抱負をお聞かせください。

小松: 医療機関の経営は、以前よりは複雑で厳しいものとなりました。そのため、医療の腕は確かであるにも関わらず、経営に頭を痛め、医療に集中できない先生が増えているように感じます。私は、著書や日頃のコンサルティング活動を通じて、一人でも多くの先生が経営における悩みを解決し、目の前の患者さんや医療の質の向上に集中できるようになって欲しいと思っています。これにより、患者さんに、より良い医療が届くようになると考えているからです。

(終わり)

画像: 患者視点は、病院経営のスタートライン
医療機関の経営をコンサルティングする立場から

小松大介 Daisuke KOMATSU

株式会社メディヴァ取締役。神奈川県出身。東京大学教養学部基礎科学科第二卒。同大学院総合文化研究科修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとして、データベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、メディヴァを創業。150件以上のクリニック新規開業・経営支援、200件以上の病院・介護施設コンサルティング経験を活かし、同社コンサルティング事業部のリーダーを務める。著書に『診療所経営の教科書』『病院経営の教科書』(日本医事新報社)他。

株式会社メディヴァ ホームページ

協力:株式会社メディヴァ、取材・構成:塚田史香
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