在宅医療に携わる医療者ならば、誤えん性肺炎や転倒による骨折が疑われる患者さんに「ここでX線検査ができれば」という思いを、いだいたことがあるのではないでしょうか。

2018年10月に富士フイルムメディカル株式会社より発売された、携帯型X線撮影装置「CALNEO X air(カルネオ エックスエアー)」。そのパイロット機を活用しているのが、世田谷区の在宅医療に携わる桜新町アーバンクリニック在宅医療部です。都内でも在宅医療に力を入れている診療所の一つとして、メーカーよりトライアルの協力依頼を受け、日々の診療に役立てています。

院長の遠矢純一郎先生は、在宅でX線検査ができる最大のメリットを【即時性】だと考えています。

「これが必要なシーンは、在宅医療の現場で、何かしらの判断に迫られている時です。たとえば自室で転倒された患者さんが、足のつけねの痛みを訴えている。それが転んだ直後だから痛いのか、骨折していて病院に搬送するべきなのか、診察だけでは判別が困難なケースが、しばしば起こる。その判断をその場でできるのは、患者さんにとって大きなメリットです」

さらに、即時性に紐づく利点として、遠矢先生は「患者さんのストレス軽減」についても言及しました。

「在宅医療の患者さんは、そもそも移動が難しく通院できないから、在宅で医療を受けておられます。いざレントゲンが必要な状況になり、撮影のために病院へ搬送するとなると、精神的にも身体的にも大きな負担がかかります。場合によっては、入院をきっかけにせん妄やADLの低下が起こります。僕らとしては、それを避けたいという思いがあるんです」

携帯型のX線撮影装置によるエックス線撮影は、入院を回避できるか否かの判断の分岐点で、大事な情報を与えてくれるのだそう。新たなツールの登場に期待が高まる中、実際の現場での使用感や、画像の質、運用におけるポイントなどを聞きました。

画像: 富士フイルムCALNEO X airに期待する、在宅医療の新たなプロセス
【携帯型X線撮影機カルネオ エックスエアー実機使用インタビュー】

遠矢純一郎先生|Junichiro TOYA

総合内科専門医。日本在宅医学会指導医。スウェーデン・カロリンスカ医科大学 認知症ケア修士。桜新町アーバンクリニック院長。1992年鹿児島大学医学部卒業。大学病院・公立病院などの勤務を経て、2000年用賀アーバンクリニック副院長。2004年から在宅医療に取り組み、2009年より現職。

携帯型X線撮影装置の実用性

——使用頻度を教えてください。

当院の在宅の患者さんは400人ほどで、使用は月に4~5回程度です。

——携帯性はいかがでしょうか。患者さんのお宅に訪問する時は、どのような状態で持ち運ぶのでしょうか?

付属のキャリーバッグに入れて、手持ち運びます。三脚も含めると、全部で4つですね(画像参照)。

画像: 奥の2つが三脚。手前左が本体、手前右がパネルやノートパソコンなど。

奥の2つが三脚。手前左が本体、手前右がパネルやノートパソコンなど。

画像: 携帯型X線撮影装置の実用性
—患者さんのご自宅で、組み立てには、どのくらい時間がかかりますか?

三脚をたてる作業に、時間がかかります。導入当初は2人がかりで5分かかりました。慣れてくれば1人でも5分程度でできるようになります。

—では1名体制の往診でも使えるのですね。

できなくはないでしょうが、基本的には2名体制の方が安心ですね。患者さんによっては検査に不安を感じる方もいらっしゃいます。医療者のサポートがないと、じっとできない方もいますので。1人が準備をする間に、もう1人が検査の説明を進めるイメージです。

—ベッドが壁ぎわにレイアウトされているお宅など、三脚をたてられない状況ではどうするのですか?

実際に、そのようなケースは非常に多いです。その時は手に持ち、患者さんを跨ぐ形で撮影します。放射線の被ばくをどうするかという問題があり、僕らは、撮影者が鉛入りの防護エプロンを着用するようにしています。

画像: 手持ちの時は、右手親指の位置にあるシャッターを押して撮影する。

手持ちの時は、右手親指の位置にあるシャッターを押して撮影する。

—本体は約3.5kgとのこと。女性でも持ちあげられる重量ですね。

ノートパソコン2台くらいの重さですからね。20年近く前にも、持ち運びが可能なエックス線撮影機が開発されたことがあったんです。実際に触る機会もあったのですが、10キロ以上の鉄のカタマリのような箱で、持ち上げるのがやっと。さらにその当時のものは、撮った画像を病院に持ち帰り、現像してはじめて読影できるというものでした。

—毎回手持ちというわけにはいかないのでしょうか? 三脚を運ぶ手間もなくなりますよね?

手持ちの方が準備の時間も短縮出来はしますが、やはり医療者側の被爆を考慮すると、可能な限り三脚を使った方がいいです。三脚にカメラを設置できれば、本体からシャッター部分を外し、コードをのばしてシャッターを押すことができます。撮影者は本体から、2mはなれることができます。

画像: シャッター部分を本体から外し、コードと腕を伸ばせば2m離れることができる。

シャッター部分を本体から外し、コードと腕を伸ばせば2m離れることができる。

携帯型X線撮影装置の操作性

—撮影の設定や設置など、むずかしさを感じるところはありますか?

エックス線検査は、患者さんごとに条件をあわせることが、結構難しいんです。身体のどこにあてるかによって、管電圧や時間、距離などを判断する必要がある。CALNEO X airは、その辺りをオートでやってくれるので、特にむずかしさはないと思います。

—内臓バッテリーは、どのくらいもちますか?

本体とカセッテの役割を果たすパネルセンサーの両方にバッテリーが内蔵されています。付属のノートパソコンもありますので、合計3つ充電する必要がありますね。

1日10人くらいならば、電池切れせずに回れるので、現在の頻度でならば困ることはありません。バッテリ残量のステータスを示すLEDランプもついています。でも、たまたま頻度が多い週に、うっかり誰も充電せず「あれ?」ということになるのは怖いので、うちのクリニックでは、毎日充電するよう習慣づけています。

画像: 本体だけでなく、カセッテの役割を果たすパネルセンサー(DRカセッテ「カルネオ スマート」)の充電も忘れずに。パネル側面がシェル形状となっている点、防水仕様な点など、ユーザー目線で開発されている。

本体だけでなく、カセッテの役割を果たすパネルセンサー(DRカセッテ「カルネオ スマート」)の充電も忘れずに。パネル側面がシェル形状となっている点、防水仕様な点など、ユーザー目線で開発されている。

—三脚自体の安定感など、他に気になる点はありますか?

あるといいなと感じたのは、本体、パネル、パソコンの3台に電源が入り、正しく繋がっているかが分かる仕組みですね。あるいは、どこか1か所でも接続にエラーがあれば、シャッターを切れない、つまり本体から放射線が出ない仕組みになるとうれしいです。

接続できていなければ、当然、画像も表示されないのですが、現状ではシャッターが切れてしまうんです。正しく接続できているか、押してみないと分からない。けれど放射線が出てしまうので「試し撮り」もできません。

画像: 左右あわせて、4脚で自立します。

左右あわせて、4脚で自立します。

—接続自体はそこまで難しいものではないのですよね?

とてもシンプルです。しかし、過去に一度、シャッターを押したのに、パソコン画面に画像が表示されなかったことがありました。結果から言うと、撮影はできており、パネル側の内蔵メモリに画像も残っていたので再撮影は免れましたが、Wifiの差込口が、ひとつ隣りのUSBにささっていたことが原因でした。USBから画像を取り出す際に差込口を変えて、そのままにしていたらしく…。こちらの確認不足といえばそうなのですが、その時は焦りましたね。

画像: USBポートがひとつズレていると、Wifiによる転送ができない=撮影画像が即時に表示されないので注意が必要。

USBポートがひとつズレていると、Wifiによる転送ができない=撮影画像が即時に表示されないので注意が必要。

—画質はどうですか?ストレスなく読影できるクオリティなのでしょうか?

通常、臨床に使う分には十分な画質だと思います。

患者さんの寝ている場所が、ピシッと平らだとは限りませんし、場合によっては手持ちで撮影します。当初は「そのような状態で撮影をして、歪な像にならないだろうか?」と不安がありました。しかし実際に使ってみたら、良いんです。画質が診断のストレスになるようなことは全くなく、拡大しても精細なまま、みることが出来ます。

メーカーさんによれば、とくに画像を受け取る側のパネルに、低線量と高画質を実現する最新技術が詰まっているそうです。DICOM規格にのっとっていて、一般的に据え置きで使われるX線撮影装置の上位機種と同じセンサーや画像エンジンを積んでいるそうです。

画像: ベッドに置かれているのが、センサーパネル(カセッテDR「カルネオ スマート」)。このパネルの精度が上がったことで、従来の1/4の放射線量で撮影できるようになり、撮影機本体の小型化も実現したのだそう。

ベッドに置かれているのが、センサーパネル(カセッテDR「カルネオ スマート」)。このパネルの精度が上がったことで、従来の1/4の放射線量で撮影できるようになり、撮影機本体の小型化も実現したのだそう。

在宅医療のプロセスを変える携帯型X線撮影機

—小型ゆえの限界を感じることはありますか?

性能に関しては、感じません。パネルセンサーの性能の高さ等を伺っていると、さすがフィルムメーカーさんだなと感じます。

—現在はパイロット機を試用中とのことですが、自院で購入を検討する余地はありますか?

慎重に検討することになるのでしょうね。価格は、X線機器本体、高感度のDRパネル、あとは現場で画像を確認するコンソールのソフトも含めて、外来据え付けレントゲンよりやや安価というところです。

在宅でも外来でも使えますので、もし新規開業で外来と在宅をやる予定の先生ならば、備え付けの装置ではなく「これがうちのX線撮影装置だ」と決めて、購入するのは、ひとつのアイデアかもしれません。それくらいに、よい画像で撮れるんですよ。在宅の患者さんに提供できる医療の質も上がりますしね。

—在宅医療の現場で、有用なことは実感されているのですね。

そうですね。あと気づいたこととして、地域の体制の話になりますが、地域に1拠点「在宅検査部」みたいなものがほしくなりました。もちろんメーカーさんは「1施設1台ずつ買ってほしい」と思われるのでしょうが(笑)、現実的にすべてのクリニックが1台ずつ所有するのは難しい。

それならば、たとえば世田谷区に1人、在宅検査センターのようなところに連絡すると、検査スタッフがこの装置をもって出張撮影にきてくれるという仕組みです。

—その体勢が整えば、地域全体の在宅医療の質が均一に上がりますね。検査ができることは、患者さんの安心にもつながります。

実際そうなんですよ。患者さんもご家族も、聴診だけで「肺の音が、どうもアレですね」と言われるより、検査をしてその結果が分かることの方が、安心と納得につながる。昨年の在宅医療学会で、CALNEO X airについてお話したんです。そこに「患者さんの会」の方(ご家族)がいらしていて、やはり言われたんです。「患者にしたら下手な医者がくるよりも、検査機器がきてくれることがどれだけ安心につながるか!」と(笑)。

すでに在宅用のエコー検査機器は開発・発売され、当院でも活用しています。次にプライマリケアで需要の高い検査であるレントゲンが、在宅で現実的に使えるようになったことは、大きな進歩です。即時に自宅で判断でき、不要な入院を回避するという意味では、在宅の限界を広げる心強いツールです。

画像: 在宅医療のプロセスを変える携帯型X線撮影機
取材・文:塚田史香 構成:プラタナスの広場編集部
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