高尾美穂先生へのインタビュー、第1回はこちらです。

「女性には、年齢に応じたからだの変化があり、ホルモンが重要なはたらきをしています」

女性専用の健診クリニック、イーク表参道の副院長を務める高尾医師はこう語ります。これからの女性の健康管理にとって必要な考え方とはなにか。少し先の展望を伺いました。

画像: 人生はつながっている 女性のための人間ドック施設が考える予防医療(2/2)

高尾美穂|Miho TAKAO
女性専用クリニック[イーク表参道]副院長。日本産科婦人科学会専門医。日本医師会認定産業医。日本医師会認定健康スポーツ医。日本抗加齢医学会専門医。日本臨床スポーツ医学会員。日本体育協会 公認スポーツドクター。愛知医科大学医学卒業、東京慈恵会医科大学大学院修了。IYCアシュタンガヨガプライマリーシリーズティーチャーズトレーニング修了。日本マタニティヨーガ協会マタニティヨーガ指導者。株式会社ドーム(アンダーアーマー)アドバイザリードクターも務める。

女性のからだの変化とエストロゲン

「女性はエストロゲンがなくなる更年期を境に、その前後で病気のリスクが大きく変わり始めます。女性ホルモンが出る間、女性はこのような病気のリスクを低く抑えられるというギフトをもらっているともいえます」(高尾)

——エストロゲンって大事ですね。

高尾:そうなんです。エストロゲンには、前回の記事でご紹介した3つの役割以外にも、骨を強く保つという効果があります。もちろん、カルシウムやビタミンB、ビタミンK、適度に運動をすること等、その他にも重要な要素はあるのですが、エストロゲンがあることも大事な一つの要素になっています。

このように、エストロゲンがちゃんと出ているということは女性のからだにとって大事なことなのですが、そのことは普段生活していても意識されていません。たとえば若い女性には無理なダイエットをしたり、進学や就職などの環境の変化、トレーニングなどのストレスから生理が止まってしまうことがあります。

——生理が止まるとはつまり、エストロゲンが出ない。

高尾:その通りです。本人はその意味をあまり気にすることなく、目の前の痩せることだったり、競技に影響がないことのほうが重要だったりするのですが、その時期だけみたら大したことには思えなくても、将来の健康を考えたときにはやはりリスクがあります。以下のグラフをご覧ください。こちらは女性の年齢による骨密度の低下と骨粗鬆症の発生率の推移です。

画像: 女性のからだの変化とエストロゲン

高尾:ご覧いただくとわかるとおり、女性は30歳ころまでエストロゲンの量と比例して骨量が増えていきます。そして30歳前後を機に、これまで蓄えてきた骨量が徐々に減少に転じていくため30歳までに十分な骨量のピークをつくっておかないと、人生の後半に骨粗しょう症のリスクが大きくなってしまいます。骨がスカスカになってしまい、ちょっと転倒しただけでも腰や腕の骨折につながるということが起きてしまうのです。

——確かに、高齢の女性でちょっとしたことで骨折することがあると聞いたことがあります。

高尾:骨量は、治療薬等で一時的に増やすことはできても、若いころにピークを迎えた後は、歳を重ねるにつれ徐々に減少していくことになります。以上のような生理と骨の健康との関係性についても、健康診断をきっかけに知っていただけたらと思い日々受診者の皆様と向き合っています。

——なるほど、このような知識があると生理が止まることの影響がわかります。

人生はつながっている

画像: 人生はつながっている

高尾:私がよく受診者の皆様に申し上げることがあります。それは「人生はつながっている」ということです。これまでどう生活してきたかということの先に、未来の健康がつながっていきます。ですから、健康診断の結果からこれからの人生を上手にコントロールしていくきっかけを得てもらえたらよいなと思います。女性には、妊娠、出産、閉経などタイムリミットのあるイベントがありますので、一緒に考えていけたらと思います。

——年齢に応じた変化を、フォローしていくというのがイークの目指すところなのですね。

高尾:目の前のことを大事にする一方で、女性のからだの仕組みを知り、その中での自身のからだの状態を知り、健康をマネジメントしていく。そのことが、これから社会で益々活躍していく女性にとって、とても大事なことなのだと伝えていきたいと思います。

イークでは、質の高い予防医療の提供とあわせて、その先に「女性の皆様のライフデザインを支援する」ということを大事なコンセプトとしています。そこには、女性が自分の健康に対するリテラシーを高め、自らの状態を知り、主体的に健康管理をしていくことをお手伝いするという意図がこめられているのです。

——具体的にはどのようなことに取り組んでおられるのでしょうか。

高尾:快適かつ継続的に健康診断を受けていただけるように、上記のような知識を健康診断の場でお伝えしたり、皆様にご自身の健康について知っていただけるような機会を意識的につくっています。たとえばご自身の健康診断の結果をオンラインでいつでも見ることのできるオープンカルテもその一つです。健診結果後、希望者には個人用のIDとパスワードを発行し、いつでもご自身の過去カルテにアクセスできる環境を整えています。

また、私の個人的な活動であるヨガやスポーツドクターとしての知見を活かした女性向けの各種セミナーも積極的に開催しています。これらは私のホームページに開催スケジュールがアップされていますので、是非見ていただきたいです。

その他にも、受診者の皆様用にアプリの開発導入を検討しています。健康診断の予約確認から、個人の受診データの通知、個人に合わせた情報提供などアプリを通じてもう少し、より個人に合わせた情報提供と皆様とのコミュニケーションの機会を増やしていきたいと考えています。

予防医療への意識を高めていきたい

画像: 予防医療への意識を高めていきたい

高尾:アメリカは国民皆保険ではありません。どのような保険に入ればよいかを本人の責任で考えざるをえない社会です。必然的に病気に対する予防意識も高まるでしょう。

一方で日本は、最近でこそ様々な検討がされてきてはいるものの、早くから医療のフリーアクセスが実現され、病気になれば基本的に誰でも安心して病院で診てもらうことができます。このシステムは素晴らしいことではありますが、個人の中に予防に力を入れるという意識は育ちにくい環境だったかもしれません。

現在、女性の健康寿命は、その平均寿命87歳のはるかに手前で終わっていて、その差は約13年もあります。健康寿命とは、WHOが提唱した指標、平均寿命から衰弱、病気、痴呆などによる介護期間を差し引いたものと定義されています。この期間は自分の足で歩けない、自分の手でごはんが食べられない、お下の世話ができない、まわりにいる大事な人たちとコミュニケーションがとれない、という状態になりえます。だから、できるだけこの期間を短くする。つまり平均寿命に近づけるよう健康寿命を伸ばしていくというのが私たち健康産業にいる人たちが考えないといけないことだと考えています。

——そんなに差があるのですね。

ちなみに男性の健康寿命と平均寿命の差は9年。女性の方が差が大きいのです。健康寿命は厚生労働省が3年に1度発表しているのですが、この10年でむしろ男性の方が健康寿命を伸ばしています。

——女性の方が健康に関心が高そうなイメージがあるのに意外な気がします。

そうですね。確かに年々女性の間でアンチエイジングや健康に対する意識が高まってきていて手ごたえを感じます。ですが、アンチエイジングには血管や骨が健康であること、筋肉量をある程度保つことの重要性はまだあまり理解されていません。女性が長生きしていく中で、80歳から気を付けても遅い。40代、50代から、もっと言えば若い時から始めようということが伝えられれば変わってくるのかなと思っています。

——からだの内側の健康と結びついて意識されていない。

高尾:健康診断の各検査項目を見て、これから先、こういうリスクが起きるかもしれない、そのために今からできることを知っていただく。たとえばエストロゲン不足に有効なサプリメントも最近はありますので、医師と相談して上手に活用してもらいたいです。

ちなみに男性は健康改善のためのアクティビティへの参加率が高くなく、マンネリ化すると参加者も固定されてしまうことが課題だったりしますが、「太鼓でドン」のようなゲームを運動に取り入れて参加率の向上に成功している事例があるそうです。女性ならどうでしょうか。女性は目に見える変化がないと続けにくいように感じていますので、うまく取り入れて先進的なサポート事例をつくっていきたいですね。

——ありがとうございました。

取材・文:坂口雄人
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